みわファーム戦記

■戦争勃発

2004年8月,雑草軍の攻撃を受けたみわファームは滅亡の危機に瀕していた.
倒しても倒しても姿を変えて再生し,圧倒的な生命力で次々と版図を拡大する雑草軍に,もともと身体が弱い防衛軍はなすすべもなかった.

そして今,最重要基地である手作り農地まで,敵の主力部隊であるフジツルン隊に覆いつくされようとしていた.

「隊長っ,すでに農地内にもフジツルンの触手が伸びております! 対抗手段を講じないと,じきにここも占領されてしまいます!!」
「うろたえるな,まろ隊員.手は打ってある」
「隊長,本当ですか? 前回も同じセリフをおっしゃりながら,花火が鳴ると真っ先に退却されましたが...」
「私に考えがある」
「で,その手とは?」
「ふふ,聞いてビビるんじゃないよ.名づけて「恐怖のウサギ作戦」」
「隊長,まさか,あのウサギを...」
「そうよ,野に放つのじゃ」
「隊長...,あいつら,勝手に穴掘ってどっか逃げちゃいますよ」
「ふふふ,心配するな.第二作戦も考えてある.名づけて「爆裂ヤギ作戦」!」
「ヤギったってあいつらチビのトカラですよ.フジツルン一騎倒すのに1日かかりますよ」
「よし! 走るよっ!!」
「あっ,隊長!!」

突然りん隊長がダッシュした.
切れ体質の彼女は,ちょっと頭が混乱すると爆走してしまうのだ.

■専制隊長りん

りん隊長のわけのわからない疾走はしばらく続き,そして突然終わる.毎度のことながら,余人にはまったく理解できない行動であった.

「あ〜隊長,考えはまとまりましたか?」
「あぁ,良い汗かいた」
「あのね〜...そうだ,作戦の前に戦場を視察するってのはどうでしょうかね?」
「行く.まろ隊員,先導しなさい」
「ではこのリードにつかまってください.おわっ,隊長!」

うれしいと唐突にリードを引っぱるのも,彼女の習性であった.

「た,隊長,待ってください」
「うろたえるな,まろ隊員」
「いや,そうじゃなくて...」
「この竹やぶが怪しいねぇ.潜入する」
「え゛? まさか一人で遊ぶ気じゃないでしょーねー!?」
「偵察よ,テ・イ・サ・ツ.お願い,行かせて」

まろ隊員は隊長の真摯なまなざしに弱い.

「じゃ,まぁいいですけど,がけの下は川ですのでくれぐれも近づかないでくださいよ」

20分後,全身ずぶ濡れで息を切らしたりん隊長が帰還した.

「あぁ,良い汗かいた」 「た,たいちょおおお・・・」

■破壊工作員じぇす

暗闇と静寂の中,犬は神経を研ぎ澄まし壁の攻略に取り組んでいた.
作業姿勢は体側方向にわずかに体躯を湾曲させた仰向け.
一見,人をバカにしたような姿勢だが,前手の自由を確保しながら疲労を最小限にすることができる,養成基地直伝のテクニックであった.

左前手で壁の一箇所を探ると,犬はそこに軽く前臼歯を押し当て,祈るようにゆっくりとあごを引いた.
歯は壁の表層部を空しく滑った.
しかし犬はあせらず,位置をずらしながら二度三度と同じ動作を繰り返した.震えながら細められた目が,犬の集中力の高まりを物語っていた.

「!」

前臼歯が微かな引っ掛かりを捉えた.
犬はそこに犬歯を突きたてると,強靭な咀嚼筋を収縮させ壁を噛み砕いた.

「ガリッ!バリバリバリッ!!」

肉厚ベニアで補強された壁であったが,的確な攻撃の前にはひとたまりもなかった.まろが丹精込めて作った犬小屋であったが,こぶし大の穴が側面を貫通した.

「第1ステップ完了.次の作業まで1分間休憩し体力を回復する」

犬は頭の中で指令を復唱し,次の破壊工作に頭を廻らせていた.

白バラのじぇす...防衛軍唯一人の女破壊工作員.
その土臭い容姿とは裏腹に,抜け目の無さと執念深さは天下一品.
彼女の自主トレにより,みわファーム防衛軍は内部から崩壊していくのだった.

■爆裂ヤギ作戦

大方の予想に反して,おちびのトカラヤギは善戦していた.

強力な全方位作戦を展開する雑草侵略軍に対し,あくまでマイペースではあったが,着実な戦果を上げつつあった.
彼らの武器は粘り強さと強靭な消化器官.
容赦なく照りつける真夏の日差しにもめげず,口いっぱいに雑草をほお張り,もぐもぐと緩慢な攻撃を加え続けるのであった.
完全に地面を覆いつくしていたフジツルン隊も,ヤギをつないだ古タイヤの周辺は地肌が見えるまでに後退していた.

まろ隊員は(隊長に接するとき以外は)沈着冷静で情が薄いとさえ言われていたが,実は密かにヤギたちに惹かれていた.
臆病なくせに頑固そうな表情.狭い頭から突き出たちっこい角.でっぷりと横に張り出した腹とちょっとガニマタの足.
そんな彼らがちょこちょこ動き回るのを見ていると,戦闘に疲れた心が癒されるようであった.

彼は自ら申し出て,畜舎から戦場までのヤギの送迎と畜舎の清掃を担当していた.
しかしそんな彼の献身にもかかわらず,ヤギたちはまったく心を開こうとしなかった.

「ま,いーか.一週間も世話すればなついてくれるだろう」

そんなまろ隊員の願いを一蹴し,今もび〜び〜と鳴きわめきながら送迎に全力で抵抗するヤギたちであった.

■口殻機動隊

防衛軍が劣勢を一気に挽回すべく組織した恐るべきスナイパー集団,,,総勢5羽のマッチョなにわとり達,,,それが口殻機動隊(pecking squad)である.

幼少の頃から激しい英才訓練が施され,今,戦いの場に解き放たれようとしている.

いまだピーピーさえずるヒヨの身ながら,その飽くなき食欲と驚くべき動体視力によって,必ずや侵略軍に一大打撃を与えてくれるに違いない.

そして,なによりの武器はその機動性.
一旦小屋を離れれば,その居所は防衛軍司令部でさえ把握が困難とされる.
(容赦ない無差別攻撃が,隣国の野菜畑にまで及ぶことがある)

弱点は...一羽がおいしそうな獲物を口にすると,それを全員で追っかけてしまうこと.大騒ぎになって戦闘どころではないのである.
しかし,羊/ヤギ隊が手を出そうとしないセタカ=アワダッチ部隊まで果敢に攻撃してくれる,貴重な戦力であった(下の方の葉っぱをチョンチョン突っつくだけだけどね).

行け行け,口殻機動隊〜!
みわファームの未来は君たちにかかっている!!

■内部抗争

「どぇ〜っ!」

じぇす工作員の延髄斬りが決まった.
不意をつかれた男性隊員は,よろめきながら目をまん丸にして抗議した.

「な,何ですか!? いきなりな〜んですか! ぼ,僕は...」 「問答無用っ!!」

じぇすは隊員の首輪をつかむと激しく左右に揺さぶった.
最初は冷静にやり過ごそうとした隊員であったが,やがて相手のペースに巻き込まれ,くんずほぐれつのレスリングが展開されるのであった.

彼の名はサン.

防衛大学を主席で卒業したエリート参謀であったが,実戦経験が無いため,言わば見習士官として従軍していた.
ごつごつの強面に鍛え上げられた長身.しかしその容姿とは裏腹に,性格は純朴でお人よしであった.

じぇすは自分自身の心の動きに困惑していた.
彼女は兄貴分であり上官でもあるサンを慕ってはいたが,その育ち良さげなノホホンとした表情を見ていると,ついケンカを吹っかけたくなるのだ.
生まれて始めて芽生えた他人への甘えの気持ち.
その一方でくすぶる都会育ちのエリートに対する嫉妬と反感.
自分の中に相反する2つの感情が存在することに,彼女はまだ気づいていなかった.

じぇすの心の葛藤を反映して,レスリングは時間が経つにつれ激しさを増していった.
上から抑え込みにかかるサンに下から食らいつくじぇす.
大音響と共に,ソファの上から落下する白黒の犬団子.
それにつられて爆走を始めるりん隊長...

防衛軍の秩序は事実上崩壊していた.

■最終兵器

りん隊長とまろ隊員は,ファームの中心部に立ってあたりを見渡していた.

信じられないことだが,あれほど強力で難攻不落に思えた侵略軍が一掃されていた.
昨日まで背丈を超える雑草が密集し,まったく視界が利かなかったのがウソのように,今やどこからでも敷地を一望することができた.

まろ隊員は泣いていた.
流れ落ちる涙を拭おうともしなかった.

「やった...やればできるんだ.身勝手な隊長と頼りにならん兵隊どもの面倒を見ながら,結局俺はやり遂げたんだ.強烈な日差しと高温,毒虫どもの攻撃にも挫けなかった.お,俺は勝ったんだ! わが夏休みに悔い無ーし!!」

しかし,りん隊長は知っていた.
口数ばかり多くて一向に進まないまろ隊員の作業に痺れを切らし,Hiro総司令が密かに援軍を手配していたことを.

その名も "しるばぁ人材派遣団".
歴戦の古兵だけで構成された傭兵集団である.

ファームに駆けつけるなり,ひょいひょいと茂みに踏み込んで行った8人の勇士たち.
ある者は腰が曲がり,ある者は歯が抜け,,,しかしその表情は底抜けに明るい.
彼らの奮戦で侵略軍は次々と枯草の山に姿を変えていった.

戦闘はたったの半日で終了した.

「暑うてどんならんわ」

簡潔な報告が完了したとたん,男たちはさっさと帰っていった.
無駄,妥協の一切無い,まさにプロの仕事.
寝坊したまろ隊員が戦場に駆けつけたのは,その直後だったのである.

まろ隊員はまだガッツポーズで肩を震わせていた.

「彼には黙っとこう」

そんな様子を横目で見ながら,固く心に誓うりん隊長であった.

・・・みわファーム戦記(完)