日本の純血種というのは、ほとんどが山に囲まれたその土地に根ざした犬たちのことだと思います。だから、一部の闘犬や座敷犬を除いて、血を守っていく、つまり、他の血を混ぜないようにするという考え方が強いような気がします。このような和犬に対し、洋犬といわれる犬たちは、何らかの目的で作られた、と言えると思います。
さて、ボーダーコリーですが、この犬たちはストックドッグ(stock dog)として作られました。家畜犬という意味です。まさに家畜を操るのに力を発揮してもらうためです。
シープドッグトライアルが始まるずっと前から、Old Hempという犬がこの世に現れる前から、家畜犬は人間とともに暮らしていましたが、トライアルで羊追いの腕を競うようになってから、人々は、より、役に立つ犬を求めてブリードを真剣に考えるようになりました。
それまでに確立されていた純血種などから、必要そうな血を受け継いだり、家畜の扱いにすばらしい能力を見せる犬は血統証が有っても無くても賞賛され、血を残しました。
ISDS(International SheepDog Society)はそのような犬たちを「Registerd on Merit」という枠を設けて積極的に登録してきたのです。
なぜなら、彼らの唯一の目的は家畜をいかにうまく扱う犬を作るかということだったからです。
(もっとも有名なボーダーコリーのうちの一頭、Wartime Capの4代祖にベアデットコリーのMaddie ISDS #8がいるのは、よく知られた事実ですね。)
見栄えという意味での容姿はまったく関係ありませんでした。
大事にされたのは、強靭な体躯、しなやかな動き、そして彼らの頭の中でした。
ハンドラーと仕事を共有し、コマンドに従うだけでなく、自分の判断を持つ犬。そんな犬たちに、ボーダーコリーという名前をつけました。
現在、いろいろな場所で活躍しているボーダーコリーたちは、みな、その家畜犬としての能力の恩恵にあずかっています。
アジリティやフリスビーのときに見せる俊敏な動きや、動体視力。
フライボールなどで見せる激しさや速さやチームワーク。
介助犬、探索犬として見せる、 根気強さや、目と鼻の良さ。
さらに、人間の意を汲もうとする力や、人間と会話したいという欲求から築かれるコミュニケーションといった、コンパニオンとしての素質さえ、家畜を人間と一緒に扱ってきたからこそ、培われてきたものなのです。役に立つブリードというのは、従順で人の話をよく聞く、といった部分も含んでいるのです。
ボーダーコリーは唯一です。
どんな局面においても、スペシャルアジリティ犬やフリスビーコリー、愛玩ボーダーといった、特別なラインを作り出す必要のない犬だと思っています。
日本で家畜を扱う日常を送ることは難しいかもしれませんが、そういう犬なんだということ、私たちの横で寝そべっている愛すべき奴らが、そういう歴史を背負い、たまにその片鱗を見せることを理解し、大事にしていきたいと思っています。
彼らは生まれたときから愛情を持って育てられますが、家畜犬としての素質も早い時期に見極められます。
生後50日程度で、投げられた紙くずを人間のもとに持って帰ってくるかどうか、不意の物音に怯えないか、などといったことをチェックするケースもあります。これは、持って生まれた能力(本能)が何よりも大事であると言うことを意味しているのです。
ボーダーコリーのトレーニングビデオなどを見ていると、若い月齢の子犬の時にすることは、
・ 彼らを危険な目に遭わせないこと
・ 彼らをよく知ること
これだけだと解説しているものもあります。子犬たちのそれぞれの能力や性格、癖まで知ることによって、これからの物事の教え方も変わってくるはずです。
6ヶ月も過ぎるころの少し月齢のいった子犬たちは、少しずつ、その家庭、牧場の仕事の役割を覚えていくことになります。仕事の教え方は、それぞれの牧場ごとに培った、それぞれのやり方があると思いますが、基本は、犬の本能を最大限に引き出してやることです。
彼らは生まれながらにして、物を持って帰ってこようとする力、群がバラけないようにまとめようとする力などを持っています。自然に身体が動くようになるのを手伝ってやることがトレーニングである、と言ってもいいでしょう。
しかし、犬が勝手に羊を連れて行く先を決めるわけではないので、誘導するためにコマンドを教えます。(逆に、犬たちの判断が間違っていないときは黙って見ていればいいわけですが。)彼らの本能をなぞり、人間と犬たちとの共通語に置き換えていく作業が、コマンドを教えるということになるのです。
たとえば、彼らには、羊の群がバラけないポイントに位置するという本能があるので、そこに来たら「止まれ」という言葉をかぶせます。ハンドラーと犬との間で、羊たちが動かないような均衡を保っているので、ハンドラーが動けば、この均衡を崩さないために、犬も動きます。その方向によって、「右回り」「左回り」などを教えていきます。
小さなときに愛情をたっぷりもらった子犬は、人間とのコミュニケーションを大事にしますから、家畜を追ってどんなに興奮していても、少しのトレーニングで呼べば戻ってくる犬になります。「終わり」のコマンドで家畜を放って帰ってきます。
放牧や家畜を誘導するときに必要なのは、以上の4つのコマンドだけです。
さて、ここで言いたいのは、牧羊の方法ではなくて、「トレーニング」または「訓練」と言われるもののことです。
彼らは、彼ら自身の能力や判断を大事にされているがゆえに、人間を尊重し、言うことを聞いてくれるのです。
ボーダーコリーについて書かれた文章をいろいろ探してみると、よく言われていることがあります。
「彼らは人間にとても服従的であるけれど、決して服従的に育ててはいけない」
英語では、前者の服従にはobedientがあたり、後者はsubmissiveがあたります。
つまり、自らの意思で人間に服従してくれているのであって、人間が彼らを無理やり屈服させてはいけないのです。どちらも日本語では「服従」と訳せるので混乱してしまいますが、殴って怒鳴って恐怖心から人間の言いなりになる犬や、おやつ攻めで人間から目を離せなくなるような犬は、自分で物事の判断ができなくなってしまいます。
どちらも人間の言うことは聞くようになるでしょう。しかし、そういう犬たちは、実際の仕事場に出たとき、ずっとコマンドをかけつづけなければ役には立たないでしょう。ご褒美と引き換えでなければ耳を閉ざしてしまうでしょう。どんなときも、人間の顔色をうかがう犬になるでしょう。
私たちは、犬が喜んでついてきてくれる、そんな人間でいたいと思います。
今日、ボーダーコリーを飼う目的は人それぞれでしょう。しかし、たとえ、ここに追うべき家畜がいなくても、私たちは彼らの生い立ちと気質を尊重してトレーニングすべきです。
そのためにも、人間と犬とのけじめをつけるところはきちんとつけながら、彼らの心と能力をしっかり見つめていかなければなりません。