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ボーダーコリー特有のおはなし

特にボーダーコリーに関連の深い遺伝の仕組みについてまとめてみます.

ハーディング本能

眼の力

 ボーダーコリーのハーディングで印象的なのは,相手を鋭い目つきで睨みつけ,その不思議な力で家畜を誘導することでしょう.したがって「眼の力」はボーダーコリーの作業能力に大きく影響します.これが強すぎると羊を凝視するだけになり誘導ができなくなりますし,弱すぎると睨む前に羊に突進してしまうことになります.ただ,多遺伝子性であり後天的な影響も大きいですから,遺伝要因の影響を正確に推定することは困難です.ちなみに,ここでいう「眼の力」とは次の2つの性質を表しています.

  1. 動くものを熱心に見つめ,目で追う傾向.
  2. ある距離をおいて動きをチェックしようとする傾向.

 ボーダーコリーと他の犬種を掛け合わせると,その子犬にはさまざまなレベルの「眼の力」が現れてきます.以下はその強さを7レベルに分類した例です.一般に「眼の力」が強い因子の方が弱いものに対して優性です.

  1. なし:羊を吠えて追い立てる
  2. 弱い:ほとんど頭を下げることがなく持ち上げている
  3. 軽い:たまに頭を下げる
  4. フリー:羊を見つめ眼による誘導も使うが,視線は群の中を次から次と移っていく.眼で羊を止めることもあるが,動くのを許してしまう.
  5. ミディアム:羊を眼でコントロールする.1頭を止めてから次に移る.
  6. 強い:羊を自在にコントロールする.しかもコマンドに対応できる.
  7. オーバー:羊を見つめたまま動けなくなってしまう(ポインターのように).

収集(gathering)本能

 家畜をまとめてハンドラーの元に連れてくる本能もボーダーコリーの大きな特徴です(同じ牧羊犬でも,ほかの多くは「家畜をハンドラーから遠ざける」本能を持っています).本能のあるものが無いものに対して優性です.

(音や接触に対する)感受性

 多遺伝子性で不完全優性(中間レベルが存在する)です.音や接触に対する感受性は,仕事の性能や生活能力を左右するので,特に仕事犬にとっては非常に重要です.

NN SS → 低感受性
Nn Ss → 中間レベルの感受性
nn ss → 過敏

 音に過敏な犬は雷や銃声を恐がりますが,うまく利用することもできます.例えば,手をたたけば近くのものを咥えるように仕込むことができます.低感受性の犬には,頑固でわがままという望ましくない性質が現れます. またこれらの感受性は,性格的な「シャイさ」にも大きく影響します.

 感受性の程度は飼い主の性格とうまくマッチしている必要があります.優れた作業犬にはNnタイプがもっとも多いのですが,訓練する方が鈍いと簡単にだめになってしまいます.nnタイプの犬は声を張り上げると仕事を止めてしまう傾向があります.通常,SSとNNタイプの犬は作業に適していないとされます.適切な訓練によってものになることもありますが,交配には適していません.

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コートの色

ブラックとレバー(レッドと言うこともあります)

 ボーダーコリーでもっとも多いカラーはブラック(遺伝子座Bの遺伝子B.これに遺伝子座Sのホワイト遺伝子が作用してブラック&ホワイトになる)です.ただし遺伝子タイプとしてはBBとBbの2つがあります.BBはブラックだけですが,Bbはその他の色も直接の子孫に出ます.したがってレバーの子が欲しければ,Bbの親を用いる必要があります.レバーは劣性なので交配の中では特に注意深く扱う必要があります(レバーにレバーを掛けあわせない方がいいです).

トライカラー(atat

 ブラック&ホワイト&タンとレバー&ホワイト&タンの2種類のトライカラーがあります.前者の方が一般的です.上記のB&Wとは別の遺伝子座(A)にあり,ベースがどんな色であっても現れます.今日,トライカラーが多く見られるのは,Wiston Cap(彼自身がトライカラーでした)の影響が大です.

マール

 マールは半致死的な因子(semi-lethal factor)を伴うので注意が必要です.マール同士をかけると白色,盲目,つんぼなどの障害が25%の確率で出ます.半致死的因子はMMによって出現します.

  M m
M
m
MM Mm
Mm mm 
MM ダブルの致死因子
Mm 通常のブルーマール
mm B&Wやトライカラーなど他の色になる

 ブルーマールはB&Wとは異なる遺伝子座(M)の遺伝子で,かつ他の遺伝子に対しても影響します(B&Wに対して影響するとグレー(ブルー)のマールとなる).マールを出すためには,両親のうち少なくとも一方の表現型がマールである必要があります.B&Wの両親からマールが生まれたという話を聞くこともありますが,これはその親犬が子犬のときに持っていたマールが成長とともに消えてしまったためです.こういった犬たちもマールとして登録し,繁殖の際には十分注意する必要があります.

ホワイト

 ボーダーコリーのホワイト遺伝子には3タイプあります.Siは足先,胸,マズル,腹,尾の先にホワイトを出します.いわゆる「伝統的」なボーダーコリーの典型色がこれです.Spは顔面,足,カラー,尾の先など,より広い範囲にホワイト見られます.現在の(特に日本の)ボーダーコリーに多いカラーではないでしょうか?Swはあまり見られませんが,身体全体のホワイト(self-white)を出します.羊が自分達と区別しにくいため,ホワイトが優勢なボーダーコリーは牧羊に向かないという説もありますが,これはどうも俗説のようです(歴代のシープドッグトライアルのチャンピオンにも,ホワイト地のボーダーがいます).

ぶち

 遺伝子座Tの優性遺伝子T働きにより,ホワイトの領域にぶちもようが出ます.ワーキングラインではわりと一般的なカラーリングです.ボーダーコリーでこの色が見られるのは,セッターから遺伝子を継承しているのが理由とされています.

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目と鼻の色

 目の色は隠れた劣性のものまで含めて,希釈遺伝子によって影響を受けます.アンバーやイエローはレバー,ライラック,ブルーなどのコート色にリンクして現れます.ブルーはどんなコート色でも出ますが,マールに多く見られます.また,ぶち(Piebald)遺伝子とリンクしていることがあり,この場合はしばしば頭部全体や片面がホワイトになります.同時にこれは,イングリッシュ・セターやダルメシアンに良く見られるように,遺伝的な聴覚障害につながることもあります.ブルーやブラウンの模様があるマールの目もあります.

 ボーダーコリーには,別名チャイナ・アイやグラス・アイとも呼ばれるウォール・アイが出ることがあります.これは劣性なので,100頭に1頭の割合でしか現れませんが,その場合確率的には18頭がキャリアで81頭が無関係となります.14世代もの間出現しなかったラインで,突然現れたこともあります.

 この色の眼の視力が良いと信じる羊飼いもいますし,逆に嫌う羊飼いもいますが,個人的な好みの域を出ません.目の色が明るいほうが知能が高いとする説もありますが,遺伝学的には確認されていません.ショーの世界では暗色に固執する傾向がありますが,それも作業犬にとってはあまり意味がありません.

 ブラックの犬はブラックの鼻を,レバーの犬はレバー色の鼻をしています.希釈したブラックやレバー(それぞれブルーとライラックになります)色の犬も,それぞれ相当する色が鼻に出ます.セーブルやウィートン色の犬はブラックの鼻になります.マールも体色と同じ色になりますが,より明るい色やピンクの斑点が出ることもあります.ホワイトの犬はブラックの鼻を持ちます.アルビノはピンクの鼻になります.
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耳の形状

 耳の形状とは,サイズ,付け根の形,付け根の位置,軟骨やじん帯の強さなどです.耳には多くのタイプが見られますが,これは関連する遺伝子の種類が多いためです(=多遺伝子性).また,形だけでなくサイズや模様にもバリエーションがあるので,これを遺伝的に予想することはほとんど不可能です.ショーの世界では耳の形も重要ですが,トライアルではほとんど問題にされることはありません.

優性:大きい,付き位置が低い,ドロップ
劣性:小さい,付き位置が高い,立ち耳

以下では,3つの遺伝子だけに単純化して,耳の立ち方がどのように遺伝するかを見てみることにしましょう.

Ha 半立ち
H  ドロップ (hに対して優性)
h  立ち耳

  Ha Ha
H
h
HaH HaH
Hah Hah 

半立ち(ダブル:Ha Ha)とドロップ(劣性の立ち耳を含む:H h)
→全て半立ちになります.

 h  h
Ha
Ha
Hah Hah
Hah Hah 

半立ち(ダブル:Ha Ha)と立ち耳(ダブル:h h)
→全て半立ちになります.

 h  h
Ha
h
Hah Hah
hh  hh 

半立ち(劣性の立ち耳を含む:Ha h)と立ち耳(ダブル:h h)
→50%が立ち耳,50%が半立ちになります.

 h  h
H
H
Hh Hh
Hh Hh 

ドロップ(ダブル:H H)と立ち耳(ダブル:h h)
→全部ドロップになります.

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その他

コートのタイプ

 おそらく多遺伝子性です.犬のコートは次の5種類に分類できます(上に位置するものほど優性です).

 一般に長いコートに対して短いものの方が優性です.したがって,ボーダーコリーで確実にラフコートの子犬を産出しようとすれば,両親ともラフコート遺伝子をホモ接合体の形で持っている必要があります.短毛のケルピーやオーストラリナアン・キャトルドッグでも稀にロングコートが現れることがあるのですが,これは,先祖のボーダーコリーから引き継いだ劣性のロングコート因子が出現するからだと言われています.

 ベアデッドあるいはプードルコート(ベアデッド・コリー,ブリアード,ピレニーズ)はすべてのロングコートに対して優性です.ストレートコートはウェーブに対して優性であり,ウェーブはカールに対して優性です.粗く水に強いコートは,シルキーな木目の細かいコートに対して優性です.

 スカルは広いものが狭いものに対して優性です.ストップのはっきりした形状が,明瞭でない形状に対して優性です.また,長くてとがったマズルに対して,短くて丸いマズルが優性です.
 羊飼いやトライアリスト達の間では,スカルの狭いボーダーコリーは優秀な作業犬にならない,という経験的な説もあります.

サイズ

体が大きく骨が太いものが,そうでないものに対して優性です.多遺伝子性で,多くのバリエーションが起こります.また栄養,寄生虫などの後天的な環境要因も影響します.

 多遺伝子性です.低い形状(Low carriage)が高いもの(Gay tail)に対して優性です.性格とも関連があり,支配的な犬は尾の位置が高くなる傾向があります.尾は方向転換のときに身体のバランスをとるために使われると言われています.そのため,長い方が性能が良いという説もありますが,真偽の程は定かではありません.スタンダードでは,背中の上までくる尾は認められていません.

狼爪

 ボーダーコリーでは劣性です.後ろ肢の狼爪は比較的大きいのですが,ボーダーコリーが活動的なため,たいていは自然に削れてしまいます.したがって,生後2,3日の間に抜いてしまう方が良いとされています.

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