Translation Copyright FBCC, 2003
シープドッグに関するビギナーのためのトレーニングとハンドリングについての情報が必要だと痛感したのは,私(Andy Nickless)とジル(Gill Watson)がフェンスの中で悪戦苦闘していたときでした.そのとき,私たちはテコでも動かない頑固なテクセル混種の羊たちを引っ張り出そうと,空しい努力を続けていました.何回も転び,身体中の痛みをこらえ,最後の力を振り絞ってやっとのことで最初の羊をフィールドに引っ張り出した時のことでした.突然,邪魔が入ったのです.
そのとき私たちは,羊を引き離すのを手伝わせようと,トレーニング経験の浅い犬をフェンスの中に入れていたのですが,彼女はそれまで何一つしようとしませんでした.その犬が,死ぬ思いで引っ張り出した羊を見事なドライブであっと言う間に元に戻してしまいました...
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それまで手に入る限りの本やビデオを勉強していたので,私たちは羊の後方で犬をライダウンさせたり,左右にフランクさせる方法はよく知っていましたが,私たちのような初心者をそんなレベルにまで導いてくれるような情報はありませんでした.
今,私たちが利用できる情報は,ほとんどが羊飼いたちによって書かれたもので,シープドッグ・トレーニングに関してこと細かくまとめられています.しかし近年増え続けているハンドラーが,実は農夫でも羊飼いでもないということは見過ごされています.
そういったビギナーが必要としているのは,トップハンドラーやトレーナーであれば当たり前の情報なのです.それらは,彼らにとってはほとんど第2の本能と言えるもので,とりたてて説明する必要があるとは思われなかったのです.だから私たちは,実際にトレーニングに苦労したばかりの人間が,情報を提供する必要があると思い至ったわけです.
テレビであれ会場であれ,シープドッグ・トライアルを実際に観戦した人なら,皆さんこう考えるのではありませんか? シープドッグは羊仕事の本能を持つように繁殖された非常に特殊な犬で,ハンドラーや羊飼いはこの本能をちょっとばかり磨くだけなんだろう...
ハズレ〜ッ!
犬の先祖はオオカミであり,シープドッグも例外ではありません.彼らの基本的な本能は,ふわふわの羊を暖かな納屋に誘導することではなく,罠に陥れて食べてしまうことです.そう聞くとショックを受けられる方もいるでしょう.
幸いこの本能は,長い年月をかけた選択的な繁殖で弱められ,ほとんどの犬は,自分の欲求ではなく,ハンドラーの望むことを確実かつ安全にこなすようになりました.
これもオオカミが持つ,「群のリーダーのために働く」 というもう一つの本能のおかげです.信じられないかもしれませんが,もしあなたが群のリーダーになることができれば,犬はあなたのためなら何にでも全身全霊で打ち込みます.最後には,言葉というよりはむしろ声のトーンで,犬にたくさんの情報が伝えられるようになるでしょう.
「ローバー,まったくしょうがない子だ.止めなさい!」 と言うより,ちょっとした唸り声の方がずっと効くのです.
ところで冒頭の私たちの犬ですが、彼女は間違えたわけではありません.私たちは羊たちをフェンス内でコントロールするという状況を作り,彼女はそれを観察していたのです.私たちが頑固な羊をペンから引っ張り出した時,彼女は何か大変な事が起ころうとしているのに気がつきました.羊の1頭がまさに逃げ出そうとしているのです.彼女はとっさの判断で,率先して羊をコントロールしてくれていたんですね.非難されるとすれば,それは彼女ではなく私たちだったのです.
私たちは,読者の皆さんをインターナショナル・トライアルにお連れしようとしてるわけではありません.むしろ,初めて牧羊の世界に足を踏み入れる方に,痛みや怪我をできるだけ少なくするための実用的な情報を提供したいと考えています.
ここでは,ボーダーコリーとトレーニングを始めるのに必要な基本的な情報と,さらにトレーニングを進めるために参照すべきリファレンスを,一通り揃えようとしています(最終的には,ですが).
ただし,書く内容は私たちの経験の範囲内のことだけにします.さまざまな情報源から得た知識を自分たちで試してみて,実際に効果があり,ベストと思われるものだけをピックアップしていきます.私たち自身も,ここに書かれたすべてのことがすべての初心者ハンドラーと犬に当てはまるとは考えていません.ぜひ,他から得られるアドバイスや資料ともつき合せ,あなたが良いと思われるものをトライしてみてください.
内容に入る前に!
この記事を通じて犬のことを 「彼」 と記していますが,これは特にオス犬を示しているわけではなく,便宜的にそう書いているだけです.私たちの知る限り,仕事の能力の上でオスとメスの違いはありません.もちろんメスは,繁殖の際により多くの時間を必要としますし,シーズン中には若干,気分が不安定になることもありますが.
また,この記事は主にトライアルを念頭においたものですが,このレベルであれば農場の犬にもほぼ当てはまると思っています.
犬,羊(or あひる),建物,フィールド,忍耐,理解,決意...
ボーダーコリーのトレーニングを始めるときに,心に留めておくべき基本的な要件がいくつかあります.それらを揃えるために,まず犬から離れて準備する必要があるかもしれません.これらの詳細については後でも触れますが,待ちきれない人はこちらまでコンタクトしてください!
牧羊トレーニングは長期的なプロジェクトであることを理解して,まず,せっかちに満足や結果を求める気持ちを諌めてください.そうすれば,目覚しく進歩する時期が来ることを,いずれあなたも体験されます.
トレーニングを始める前に,彼らの心の動きをいくつか知っておく必要があります.うまく行かないときには,ほぼすべての原因があなたの側にある...この事実を受け入れる心の準備をしておいてください.どうしようもなく服従しない犬なんて,まぁ存在しません.普通は,単にあなたの要求が理解できないため,本能に従ってしまうだけなのです.あなたに従った方が仕事がうまくいくということ,そしてその方が楽しいんだということを,彼らに示してやる必要があります.
最近、私のトレーニングを見ていたご近所さんが,誉めもオヤツも無しにどうやってそんなにうまく犬を動かすのかと尋ねてこられました.私は他犬種のトレーニングについてはほとんど知りませんが,少なくともシープドッグに関しては,
あなたは始終ガミガミ言われると嫌になってしまいませんか? 逆に丁寧な口調で頼まれると,協力しようという気になりますよね? 犬も同じだということを,ぜひ心に留めておいてください.
子犬から一人前のシープドッグを育て上げるには,長い長いプロセスが必要です.幸福の絶頂から失意のどん底まで,さまざまな状態を経験するでしょう.犬があなたの心を読めるんじゃないかと思えるときもあれば,これまで教えたことを全部忘れてしまったの?と落ち込むこともあるでしょう.そのことを,あらかじめ覚悟しておいてください(もちろん私たちも経験しました).そして,犬とあなた自身を信じてさえいれば,それらは次第に少なくなっていくということも.
「フィドにはお手上げ! ストップすらできないのよ」 こんなセリフを耳にすることもあるでしょう.実際は,人間の側が理由を見つけられないだけで,フィドは自分のやり方でふるまっているだけなのです.
犬の行動についてじっくり考えれば,大抵,間違いを正す方法は見つけられるものです.時間と忍耐が必要かもしれませんが,きっとできます.トライアルのウィナーは,これが一番上手い人たちなんです.
ハンドラーと強く結びついた良い犬は,ハンドラーのためにできることは何でもしようとします.生きていく上での最優先事項が,人を満足させることだからです.こんな絆を作るのも,実はそう難しくありません.誰がリーダーかを犬に疑いを抱かせず,思いやりと一貫性を維持できる人なら,遅かれ早かれ,そんな絆が結べるでしょう.毎日,犬とのクオリティ・タイム(quality time:良質の時間?)を持つのはいい考えです.食餌,掃除,運動,遊びやグルーミングなどは,できるだけあなた自身が行うべきです.
もう一つ重要なことは,犬を観察する時間を持つことです.複数の犬と暮らしているなら特に重要です.彼ら同士で遊ぶ様子を観察しましょう.散歩や遊びの時だけでなく,小屋や庭や敷地など,家にいるときにこそよく見てください.あなたが想像するよりも,ずっとたくさんのことがわかる筈です.誰がリーダーで誰がその地位を狙ってるか? 他の動物に対する態度はどうでしょう? 他の犬との遊び方を見れば,その犬の牧羊作業のやり方に関する重要なヒントが得られます.犬は遊びを通じて狩りや闘いのリハーサルをしています.身体をぶつけて「犬の塊」をやろうとするのは誰か,あるいは走り出した時に頭を取って止めようとするのは誰か,注意深く観察してください.SheddingやPenningなど,犬にプレッシャーがかかる状況のときに,この情報を思い出すことが大切です.あなたが本当にあなたの犬を理解できるようになれば,彼がどれくらいのプレッシャーに耐えられるかもわかるでしょう.
そしておそらく最も大切なことは,犬があなたを信頼することです.シープドッグ・トライアルで素晴らしいランを披露した犬が,ハンドラーが撫でようと屈んだ瞬間に怯えたり逃げようと身構えるのは,とても哀しい光景です.残念なことですが,恐怖で犬をトレーニングすることも可能です.しかし,それが良い結果をもたらすとは決して思いません.(犬が怖がったり逃げたりしていたとしても,そのハンドラーが犬を虐待していたとは限りません.昔のハンドラーやトレーナーのせいかもしれないからです)
私たちは,犬があなたを信頼し尊敬する方が,より良い結果を得られると信じています.これは甘やかすという意味ではありません.甘やかせば甘やかすほど,犬は不安を感じるのです.私たちが気分まかせに過剰な関心(attention)を犬に与えてしまうからです.これはどうにも止められない,人間の性と言えるでしょう.あなたは,何度,犬に飛びつくことを許し,何度それがイヤで払いのけたことがありますか? これを犬の視点で考えてみましょう.ある時はとても喜んでもらえる行為が,ある時は説明もなくダメ...混乱しませんか? もちろん 「一貫して」 甘やかすこともできます.でも,犬はまったく仕事をしなくなるでしょう.節度を持って行動した方が,ずっと賢明なようです。
一貫性は犬のトレーニングで非常に大切なファクターですが,行き過ぎはよくありません.毎日同じ時間に食餌を与え,同じ時間に声をかけ,同じ時間に散歩やトレーニングに繰り出す...犬たちはこの正確なパターンを歓迎するでしょうが,何でもこなし予期せぬことにも対処できるようになってもらいたいなら,実際的とは言えません. 同じフィールドで同じ羊とトレーニングを繰り返すのもお勧めできません.彼らは多才なんですから興味が向かう範囲で犬の生活パターンを変えてやった方が良いでしょう.
特に一貫性が必要なのは,あなたと犬の絆です.これが強ければ強いほど,そのペアは上手くやっていけます.もし飛びつきを許すなら,たとえ一張羅のスーツを着ているときだろうが,インターナショナル競技のポストで立っているときだろうが,決して気にしないように!
あなたの元に戻ってきた犬を,決して叱ってはいけません.
典型的なシーンを思い浮かべてみましょう.あなたと犬は近所の公園を散歩しています.犬は遊び友だちを見つけると駆け出しました.あなたは彼を呼びますが,お楽しみの最中の彼はそれを無視します.そこで,前よりもずっと大きな声でもう一度呼んでみます.犬があきらめてしぶしぶ戻ってくるまで,叫び声を上げながら追いかけることになるかもしれません.
さぁここが最も大事なところです.あなたは恥をかかされたような気がして,誰かを責め,仕返しすらしたい気分になるでしょう.そんなあなたは,犬を大声で叱り,叩いてしまうかもしれません.もし私なら,あなたから犬を遠ざけてやるでしょう.あなたの攻撃的な行為が,犬をすっかり混乱させてしまうからです.
犬の観点で考えてみましょう.友だちと楽しく遊んでいる最中に呼ばれ,あなたの言う通りに帰ったときにきつく叱られた...この次はどうするでしょう? わざわざ戻ってまた叩かれようとするでしょうか?
あなたの元に戻るときには,犬はいつも安心感を覚えるべきなのです.できれば,心地よい声のトーンとちょっとはしゃいだ感じで,犬が戻ってきたことをあなたが喜んでいることを伝えます.もしこれに応えないようなら,オヤツを使ってもいいでしょう(期間限定ですよ!).褒美は犬の反応に応じたものにしましょう.直ちに従ったら最高の喜び(あるいはオヤツ)を,ちょっとにぶい反応なら丁寧な承認を伝えます.犬が何か間違いをしでかして怒鳴る必要を感じたら,その前によく考えてみて下さい.後ではなく,ジャスト・タイミングで矯正することが必要です.時には選択の余地がない場合もあるでしょう.
どんな時にも,呼んで戻ってきた犬を怒鳴りつけてはいけません.犬をストップさせ,怒りを爆発させる前にこちらから彼に歩いていく方が,まだマシかもしれません.しかし,犬はフセしていることを叱られたと誤解し,さらに混乱する可能性があることも覚えておいて下さい.犬は知性溢れる生き物です.たとえ 「おどし」 が服従に効果があったとしても,それは最後の手段にとっておき,かつ注意深く用いるようにしてください.
犬をトレーニングし,何とかトライアルに出場できるようになったとしましょう.いずれその犬はトライアルの会場で,あなたがその場から消えて無くなりたくなるような何かをやってくれるでしょう.それはきっと起こります.私たちは実にたくさんの犬とハンドラーがそうなるのを見てきましたから,あなたにも起きること請け合いです! このとき,犬はおそらく何かマズイことをしたことを自覚し,良くないフィーリングを抱きながら,あなたの元に戻って来ることでしょう.ポイントはここです.このときあなたは自分の見栄を捨て,犬を歓迎しなければいけません.無理にはしゃいだり,完璧だったようなフリをする必要はありません.しかし,犬が戻ってきたことは喜んでやる必要があります.ちょうど,私たちの犬がどんなときでも私たちを見て喜ぶように.
犬はあなたの気分を敏感に察します.
怒りが込み上げてきたのに気づいたあなたには,2つの選択肢しかありません.その場でセッションを終えるか,自分の感情をコントロールするかです.怒りを抱いたまま続けても,得るものは何もありません.ハンドラーやトレイナーの怒りほど犬を混乱させるものはありません.犬に対する嫌味やあてこすりは最悪です.それよりも,うまく行かない原因は自分にあるということを,受け入れようではありませんか!
大雑把に言って,犬があなたを怒らせるのは,あなたがまだ準備のできていないことを要求したか,彼があなたの要求を理解できていないかのどちらかです.だから,怒りがこみ上げてきたら,犬にごく簡単な仕事を与えましょう.このとき,声のトーンは普通か,むしろ普段よりソフトで親しみのこもったものにします.この簡単な仕事ですらうまく行かなくても,叫んだり犬をひっくり返したりしないように.そんなときは,家に帰って庭の手入れでもしましょう.その方が建設的です.もし簡単な仕事でうまくいけば,それはその日に期待していたレベルの仕事に対して,徐々に基礎を固めていることになります.
たとえどんな問題があったとしても,必ず解決できるということを,肝に銘じておいて下さい.なぜ犬がその行動をとったのか,そしてそれを修正するためにトレーニングのルーチンをどう変えるべきか...起こった問題をよーく考えてください.
犬は,あなたを手伝おうとして,自分から行動しようとするときがあります.例えば羊たちに,いつもフィールドの一方の側を向いて特定の場所に行こうとする習性があり,犬がそれを知っていたとします.犬はその側の外に位置して,羊をあなたの方に向かせるか,あるいはうまく "バランス" をとって誘導しようとするでしょう.少しの間でも仕事を任せられる段階になれば,犬を羊の元にやってから観察してみると良いですよ.犬に好きなようにやらせてみるんです(無理の無い範囲で).あなたがいなくても結構うまくできるのを見て,びっくりするかもしれませんよ.
シープドッグとは,実際には何をするのですか?
あたりまえかもしれませんが,シープドッグは羊を余分に混乱させないようにその周りを動き,ストレスやダメージを与えずに,あなたの望むところに移動させることができなければいけません.
子犬か,それとも訓練された犬を買うべきか?
子犬を購入すれば,トライアルに出場するまでが長〜い道のりになります.その間に初心者ハンドラーの気持ちが挫けてしまうかもしれませんが,厄介な癖は一切ついていません.若い犬を買えば,トライアルまでの道のりも短くなるかもしれません.しかし,環境に馴染むのにかかる時間は予測できませんし,直すのが難しい癖があるかもしれません.
少しトレーニングした犬を売るときには言い訳がつきものですが,これは必ずしも悪いこととは限りません.あるハンドラーと相性が悪い犬でも,他の誰かの元でウィナーになる場合だってあります.オーナーの交代が,犬にとって大きなメリットになり,新鮮なアプローチによって彼の最高のものが引き出されることがあるのです.
子犬を選ぶ
一般的に,以下のガイドラインに従えば,そう間違いはないと思います.
まず,あなたが犬としたい仕事の種類に近いラインから見つけましょう.子犬は 「本当に」 安いんですよ.シュープリーム・チャンピオンの子犬でも安価に手に入れることができますし,同じくらい素晴らしい犬でもそれより安く購入できます.しかし,世界一の犬の子犬を買ったからといって,競技に勝てるわけではありません.それはほんの一歩に過ぎないのです.たとえその子犬が両親と同じクオリティを持っていても(繁殖はそう上手くいかないものですが),どう育つかはハンドラーにかかっています.ただし,それでも良いラインから購入するに越したことはありません.
父犬・母犬(もしくは両方)の仕事振りを見せてもらう
できるなら,コーナーにいる羊のに近づけるなど,プレッシャーのかかる場面を見せてもらいます.もしその犬がグリップ(噛み付くこと)するようだと,その子犬はもっと経験あるハンドラーに任せた方がよいでしょう.犬の仕事振りをよく観察して下さい.自信を持って羊の回りを動いているか? 羊に充分な空間を与えて仕事してるか? 羊たちは犬を怖がっているか(そうであってはいけないのですが)?
一定の期間内に子犬が気に入らなかったり,何か欠陥があった場合には,犬を返し返金してもらえるよう,売主と合意しておきましょう.直感を信じることです.見た目で気に入ったらそれが正解かもしれません.ただし,一番かわいい子を探したり,怯えて隅っこで震えているのに同情して購入するようなことは避けましょう.
例外はあるとはいえ,概してケンネルクラブは作業能力というよりはルックス優先で繁殖しているため,避けた方が賢明でしょう.あなたが何か私たちの知らないことを知っているのでもないかぎり...
血統
あなたが初心者であれば,良い犬を購入するほど良い結果を得るチャンスが広がるでしょう.ファーマーが道端で売っているような犬を買えば,お金の節約にはなりますが,厄介な犬を抱え込む危険もあります.一番望ましいのは,トライアル会場に足を運び,自分の目で犬を見ることです.これはと思う犬の気質を観察しながら,そのハンドラーに繁殖のことや初期トレーニングに対する反応などについて質問します.でもまぁ実際には,一旦犬を購入する気になれば,その週末には近場の子犬を見に行き,そしておそらく1頭を連れて帰る羽目になるでしょう.この場合,もっとも重要なのは母犬の気質です.ただし,くれぐれも登録された犬を購入するようにしてください.
初歩的なトレーニングを受けた犬を選ぶ
この犬たちに必要なより高度なトレーニングに関しては,著書も沢山出ています.したがって,この記事ではほとんど触れません.ただし実際には,「初歩的な訓練を受けた」 犬でも,ほとんど何も知らないことがあり,そんな犬は初期段階にあると言ってもいいでしょう.
トレーニングを受けた犬を購入する手段は,子犬をシープドッグに育て上げるための長い苦労を端折ることができるので,大変人気があります.多くの人が子犬の訓練に自信がないようですが,どちらを選択したとしても,忍耐と理解は必要です.若い犬や神経質な犬が新しいハンドラーに慣れるのに,数ヶ月かかることも珍しくありません.
もしあなたが全くの初心者なら,これを覚悟しておかないと,その期間に数え切れないくらいの害を犬に及ぼしてしまいます.
その一方, 初歩的な訓練を受けた犬なら,羊を集めてあなたの元にまっすぐ連れてくるくらいはできるはずです(どのレベルにあるかにも依りますが).環境にさえ慣れれば,この先のトレーニングはどんどん進むはずです.犬が学べば学ぶほど,新しい動きを教えるのが簡単になっていきます.忙しいファーマーにとって,トレーニングが趣味でもない限り,このような犬は理想的でしょう.訓練を受けた犬の値段を考えても,どちらが経済効率がいいかは明らかですね.フィールドに何時間も立ちっぱなしで,フセや正しいアウトランを教える代わりに,もっと実入りのいい仕事に専念できますから.
もしあなたが初歩トレーニングを受けた犬を選ぶなら,どんな犬があなたに適しているかわかるような人に付いて来てもらう方がよいでしょう.ぜひ,犬の仕事振りを見てその行動を観察してください.特に,ハンドラーの近くでどうふるまうかが重要です.
羊から呼び戻しても,喜んで返ってきますか?
ハンドラーを信頼して,飛んでやってきますか?
それとも少し怖がって,距離を置いていますか?
スムーズで職人的な動きを見せますか?
勢い良く駆け回って羊を動揺させていませんか?
ファーマーもトライアリストも,羊に対して強く接する時と優しくするべき時を区別できる犬を求めています.もし羊が必要以上に怖がっているようなら,その犬は止めておいた方がいいでしょう.同様に,犬は羊に対する支配力を示さなければなりません.静かな自信を秘めて羊にアプローチしているでしょうか?
犬の尾を見てください.羊に近づくとはね上がりませんか? もしそうなら,口実を考えて他の犬を探しに行きましょう.尾を上げるのは,羊をグリップする傾向を示す有力なサインなのです.
ハンドラーのためか,それとも自分自身のためか,犬に誰のために仕事をさせるのかしっかり心を決めておきましょう.
もし羊への集中が途切れ,あたりを嗅ぎまわったり羊のフンを食べ始めるようでしたら,他の犬にしましょう.この行動が,集中力や自信の無さを示しているからです.これらは,経験を積んだハンドラーが対処する必要があります.
ハンドラーが使うコマンドや笛の音をよく聞きましょう.それらをできるだけ同じように真似ることで,ハンドラーの交代をよりスムーズにすることができます.ただしこれは,たぶんあなたが想像している以上にデリケートなものです.いつもと違う笛を使っただけで,慣れたハンドラーがいつもの調子で音を出しても犬が無視することもあるのです.犬があなたの伝えようとしていることを理解するのに時間がかかっても,決してうろたえないようにしてください.
食餌
シープドッグは,あなたの友人であり,誇りであり,喜びそのものになるでしょう.ならば,一番安いフードに限るって道理はありませんよね? 同様に,一番高価なフードがベストと信じ込まないでください.イギリスでは,ワーキングドッグ用のフードは非課税です.ほとんどの農場用飼料の扱い店は,大きなお徳用袋入りのさまざまなブランドのフードをストックしています.袋のラベルをしっかり読み,あなたの犬に最適なものを選びましょう.与える量は,サイズ,コンディション,仕事の量などによって異なります.ラベルの指示に従うだけでなく,犬をよく見て,体重が増えすぎれば量を減らしましょう(犬の健康は本当に大事です).多くの人は成犬の食餌を1日1回と決めているようですが,私たちは一日の始まりをちょっぴり盛り上げるために2回与えています.
水
新鮮な水をたっぷり与えてやるのが基本です.犬は見ただけで胸が悪くなるようなものを飲んで,あなたをギョッとさせることがありますが,きれいな水をケチる必要はありません.むしろ,すぐに与えてやってください.
小屋
外飼いか,それともあなたのベッドが良いか? シープドッグはビックリするほどタフな生き物で,屋根すら持たない犬も沢山います.農場の一角の乾いたところを見つけたり,ドラム缶の中で風雨を避けたりしています.寒さに関しては,吹きさらしやぬかるみでない限り,そう心配することはありません.羊の元に駆けつけるチャンスが増えるなら,凍えるような冬も外で眠りたがるボーダーコリーも少なくありません.
大抵のハンドラーはこれよりずっとマシなところを用意していますが,冬場に干し藁やフリースマットを加えてやれば理想的です.ボーダーコリーは群の動物なので,仲間と一緒が大好きです.私たちはこの問題に関するエキスパートではありません.ただ最初は,犬にたくさんの楽しい時間を持たせてやりたいという意見でしたが,最近は,独りにしてやった方が犬の集中力が高まる,という考え方になってきました.その方が,犬自身の個性を伸ばすことができますし,ルームメイトから悪癖を学ぶ機会も減るようです.
室内で暮らす犬はコンパニオンなので,ハウストレーニングが必要ですが,外の小屋で暮らす犬は自分自身の場所を持っています.トレーニングセッションの出来がひどかった場合には,あなたから離れてリラックスすることができます.猫を追っかけ回すなどの悪癖もつきにくく,おそらく,あなたから離れても熱心に仕事をするようになるでしょう.外で暮らしていれば,濡れたり泥んこになってもおかまいなしです.シープドッグは臭います! 気温は考慮すべきで,冬に暖炉の前から凍てつく表に出る犬よりも,外で暮らす犬の方が上手く体温調節ができます.
日常と訓練
災いの元になるものとの接触は,できる限り避けることが大切です.若く鋭い犬には,走り去る車,ニワトリや猫など,動くものは何でも 「獲物」 になってしまいます.もしそれらを追うことを許していれば,羊追いの途中で,ちらりと羊から注意を逸らし,車やリスを追ったり見たりすることを考えるようになるでしょう.あなたのためのウィニングランが台無しになります.
ボールや穴掘りなどの普段の遊びは,ほどほどなら害はありませんが,犬が成長するに連れて減らしていった方が良いでしょう.何時間も夢中になり,歯(と息)がきれいになる大きな骨は,とても良い 「おもちゃ」 です.ただ,小さな骨は飲み込んでノドに引っかかってしまうので要注意です.
カーチェイスに夢中になってしまった犬も,若いうちなら矯正は簡単です.ただし,決して目を離さないようにしてください.車が近づいてくることに気づいたら,犬の近くに立って他に何かすることを与えてください.必要であれば,オヤツを与えてもかまいません.犬が車を追いかけずに,あなたの要求に従って寄ってきたら誉めてやります.あなたが近くにいない時は,車に近づけないようにしましょう.
できるだけ多くの時間を犬と一緒に過ごすようにして下さい.犬があなたを知れば知るほど,あなたのためにうまく仕事をするようになります.例えば,普段から 「そこにいなさい(stay there)」 という指示に慣れていれば,あなたが羊の後ろで犬をストップさせてから 「stay there」 と言ったときに,犬はあなたが何を意図しているのかすぐに理解するでしょう.
コマンド
シープドッグトライアルで使われる基本的なコマンドは,昔ながらのものです.「come-bye」 は時計方向に, 「away」 は反時計方向に羊の周りを回るコマンドです.「lie down」 はストップを意味しますが,犬の経験が豊富になるにつれて,単なる 「止まれ」 や 「一瞬の休止」 から, 「それをするな」 やそれ以外の沢山の意味で使わるようになります.「lie down」をかけたら必ず伏せさせるハンドラーもいますが,彼らは単に止まったりスローダウンさせたい場合には通常 「stand」 を使います. 「that'll do」 は仕事の終了を意味し,犬はハンドラーの元に戻らなければなりません. 「walk up」 は羊に向かって前進, 「steady」 と 「time now」 はスピードを落とすか,あるいはそのままゆっくり進む,を意味しています.どうです,犬に知性が無いなんて誰が言いました?
言葉は何でもいいんです. 「宝くじ!」 でも,一貫して使えば犬はあなたの意図するように動くでしょう.ただし自分の犬を売りたくなった時,新しいハンドラーに 「宝くじ」 の意味を説明するのに苦労するかも!
どうやってトレーニングすればよいでしょう?
陥りやすいワナをお教えしましょう.犬を最初に羊に対面させた時にも,家庭にいるときと同じように行動できるだろうと考えてしまうことです.まぁそんな子犬もいるんですが,おそらくすぐに自信をつけて,まるで別の犬に変身してしまうでしょう.一旦,基本的な本能に目覚めた犬には,羊を捕まえて殺す欲求があるかもしれない,ということを覚えておいて下さい.私たちは,後で問題にならないように幼なすぎる子犬には羊と対面させないようにしています.いずれにせよ,この問題を回避すること,つまり自分の判断よりもあなたに従って仕事をした方が良さそうだと犬に納得させるのは,あなた次第です.
最初の対面では,あなたが何を言おうがどんなコマンドを出そうが,完璧に無視されるかもしれません.でもそれはしつけが悪いのではなく,単に犬が本能に従っているだけです.あなたからの 「干渉」 を無視し,彼らの祖先が何世紀にも渡って繰り返してきたことをやり抜こうとしているだけなのです.
家庭では 「lie down」 に従い,呼べば必ず戻ってくるあなたの犬も,羊を前にした最初の数レッスンでは,あなたを無視して恥をかかせるかもしれません.このとき怒鳴ったりわめいたりすれば,あなたのために仕事をするように犬に納得させるということが,ひどく難しくなってしまいます.なぜなら,あなたは彼を混乱させ,怯えさせているからです.平静さを失わず,我慢した方が良くありませんか?
またこの段階では,他人の目の前でトレーニングしない方が賢明でしょう.思うように物事が進まないのは確実なんです.あなたがバツの悪い思いをしたり恥をかかされたように感じることは,あなたにとっても犬にとっても有益ではありません.ストップに自信が持てるようになってから,家族やお友だちを誘われても遅くはないと思います.
犬は私の思った通りに動いているしすべての言葉を聞いている,とおっしゃる方もいるかもしれませんが,それでも,彼の本能はあなたに逆らおうとしています.なぜでしょう?
もし犬が考えることができたら,きっとこんな風に思うでしょう.どこの誰が見たって羊は逃げようとしているのに,この人は私にフセさせて撫でようとしている.一体全体,この人は何を遊んでいるんだろう?...
でも,ここはシベリアの大草原ではありませんから,羊は明日も明後日もそこにいるでしょう.
そして犬は徐々に妥協し始めます.犬はあなたに喜んでもらおうとしているのに,あなたと羊の間にいるときはいつも(好ましくない)軽く唸るような声とコマンドが飛んできます.彼はあなたが不安に感じていることも知っています.
でも,羊の向こう側にいると,いつも家で誉めてくれるときのように,あなたの声はソフトでフレンドリーです.
犬から見て,あなたが羊を捕まえて殺す術を知らないことは明らかです.それでも,たぶん彼はあなたの言う通りにするでしょう.もちろん,指示した通りに伏せるとは限りませんが,一瞬立ち止まってみても悪いことが起こらないことを経験します.そして結局,犬は状況に対処しながら,同時にあなたともうまくやっていくことに対して自信をつけていくのです.
この瞬間,あなたの犬はシープドッグに変身しつつあるのです.これはよく, 「ストップを理解しつつある(getting the stop)」 と表現されます.シープドッグ・トレーニングの道はここから始まります.初めての素人でも,数ヶ月でファーマーたちが羨ましがる犬を育てられるかもしれません.フィールドを横切って羊をドライブするところを,ドライバーたちがわざわざ車を止めて見る犬.次のトライアルに向けて,shedding や penning を練習しているところを通行人が立ち止まって眺める犬...
よい動きを励まし欠点を注意し続けていけば,あなたのやり方で動いた方がずっと有利だということを,犬はすぐに理解するでしょう.セッションの時間は次第に長くなっていきます(これ自体がご褒美です).もっと長いアウトラン,もっとチャレンジングな課題・・・仕事の内容も日々楽しくなっていきます.いまやあなたに逆らうどころか,一言一句に耳を傾けています.コマンドを囁くだけで,即座に反応します.なぜなら,犬はあなたが群のリーダーであることを理解し,あなたが仕事を一番知っていると認めたからです(普通は...).
これでチームが出来上がりました.お互いが考えていることを理解し合える,本当の意味でのチームです.あなたが指示する前に,犬が思った通りに動くことがあるでしょう.彼があなたがどう考えるかを知っており,そして何よりあなたを喜ばせたいと願っているからです(晩御飯に羊の肉をもらえるかもしれませんが,それも今ではそう重要なことではなくなっているはずです).
初めての羊との対面
初めて羊と対面させる際に覚えておきたいのは,彼の集中できる時間はまだ短くて,2,3分かあるいはほんの数秒かもしれないということです.少しだけ羊の回りを駆けてから,他のことをしに行ってしまったら(たいていは羊のフンを食べるんですが),おそらく疲れか退屈が原因です.無理強いしない範囲で羊に注意を戻すようにして下さい.ただ,それよりも1時間ほどセッションを中断するか,思い切って翌日に持ち越した方が良いでしょう.
初心者ハンドラーなら,羊を見せる前にフセを教えておくと安全です.これはその時に犬が自ら伏せるという意味ではなく(そんな犬はほとんどいないでしょうが),lie down のコマンドにより迅速に反応すべきだということです.対面の前にフセを教えるのは,羊よりもハンドラーに注意を向けさせるため,と主張するトレーナーもいます.でも私なら,羊より私に興味があるような犬は願い下げですね.
初体験の犬に自由にさせてみると,羊に対して何通りかのパターンで反応します.伏せたまま見つめるだけの犬もいますが,羊に駆け寄って行くのが普通です.このとき,直線的に突っ込んでいく犬と,羊の周りを回る犬がいます.犬が動かずに羊を見つめるだけなら,ご自身で羊の周りを走ってみてください.羊の動きが,犬を動かすきっかけになることがあります.
しばらくすると,犬は羊とあなたの動きに応じて反応し始めますから,あなた自身のポジショニングに充分注意して下さい.あなたの動きが犬の動きに大きな影響を与えます.犬と羊が動く方向を予測し,正しいタイミングで適切なコマンドをかければ,コマンドの方向に動くことを教えることができます.ここで重要なのは,コマンドと一緒にあなた自身のポジションを変え,犬が羊をコントロールするのを助けてやることです.
初心者であれば,犬よりも羊の動き方にびっくりされるかもしれません.犬に対する羊の反応を学ぶもっとも良い方法は,あなた自身が羊をドライブしてみることです.もちろん,きっちり囲まれた場所が必要ですが,これができれば犬のトレーニング,特にそのハンドリングのためになる大変価値ある経験になるでしょう.裏庭や小さなパドックが理想的な練習場です.羊をそこに入れたら,向かわせる方向を決めてからドライブしてみてください.それほど簡単ではありませんよ!
練習用の場所がなければ,近所の農家に頼んで羊追いを手伝わせてもらいましょう.その機会もなければ,手に入る限りのシープドッグビデオを研究して,犬とハンドラーに対する羊のリアクションをじっくりと勉強しましょう.
私の感覚では,羊のドライブは商品を積んだスーパーマーケットのカートを押すのに似ています.それ自身が意思を持っているかのように思えるのです.カートをまっすぐ押せば,まるで羊のように右や左に動こうとします.カートが左に行こうとすれば,あなたは左手側にポジションを変え,まっすぐ進ませるために対角線,すなわち右前の方向にプレッシャーをかけますね.これがまさに,犬が羊に対して行うことなのです.
カートは荷物が重ければ重いほど自分の行き先に固執するので,より強くプレッシャーをかけなければなりません.これはちょうど,"ヘビーな" 羊と "ライトな" 羊に相当します.ヘビーな羊は犬を無視して我が道を行こうとしますが,ライトな羊は犬が近くに来るだけで逃げようとするでしょう.そこで,ヘビーな羊に対しては,犬は強い意志を持って強くプッシュする必要がありますが,ライトな羊に対しては距離を保って軽くプレッシャーをかけます.
ターンさせるときも,カートと羊の群は似ています.曲がりたい方向へカートをねじ曲げようとしてもほとんど不可能です.しかし,例えば曲げたい方向が左なら,まずあなた自身が右に動いてから押すとスムーズに曲がります.これは,犬がまず羊を flank し,それから近づいていく要領に似ています.羊とカートの明らかな違いは,カートを止めるには引っ張り戻すだけでいいということです.これをふわふわウールの友人たちにはできませんよね.そこで,引っ張らずにカートを止める方法を考えてみてください.まず2つの方法が考えられます.
もし,あなたと犬との役割分担とどんな方法でやるのかを,事前にはっきりさせておけば,羊との対面がずっと優雅でコントロールされたものになるでしょう.
犬を連れて行ってただ離してみるよりも,ラインを使った方がずっとコントロールが容易です.もしロングリードを使うなら,犬を止める際にヤケドをしないように手袋を着用するようにしてください.また,トレイリングリードやコードは,たまに何かに引っかかって犬を傷つけることもありますので,その備えが無い場合は使用しないで下さい.
魔法のコード
短いコードは,若い犬のトレーニングに非常に便利な道具です.普通のリードの約2倍の長さで,丈夫で柔らかい素材が良いでしょう.農器具店で手に入るラミング・ロープ (lambing rope) が理想的で,両端に緩いループがあるので保持するのがとても簡単です.犬の首輪にコードを通し両端を片手で握ります(犬をスムースに放すことができるように,私は2つのループに一本の指を通しています).まず犬からリードを外し,コードを使って羊に向かって歩いていきましょう.
リードを着けている犬は,肉体的にも心理的にもその影響を受けています.もがいてもムダと考えるので,行動がより穏やかになる傾向があります.犬からリードを外すには,あなたが屈みこんで止め具を外すか,頭から引き抜く必要があります.このとき若い犬は興奮して抜け出そうともがくので,作業が困難になり,余計な格闘の原因にもなります.コードであれば一方の端を放すだけで,犬も気がつかないほど容易にリリースできるでしょう.コードが首輪をすべるだけなので,犬を送り出すことがはるかに優雅なものになります.コードのもうひとつのメリットは,手のひらに隠れるほど小さいことです.仕事を楽しんでいる若い犬は,リードが見えたらレッスンの終わりということをすぐに覚えてしまうので,掴まえるのが難しくなることがあります.コードなら首輪につけるまで隠しておくことができますよね.
コードを着けたら,しっかり握ってフィールドに足を踏み入れます.もし羊が見えたら,犬はそこに行こうとしてリードを引っ張るでしょう.激しく引っ張ってレッスンの前にストレスを溜めてしまうかもしれません.そういう時は 「lie Down」 をかけます.コマンドの意味をまだ理解していなくても,あなたがコードをしっかりとかつ静かに引けば,彼は否応無しに止まることになります.
そのまま羊に向かって歩き続ければ,犬は再びリードを引っ張るでしょう.その度に上記のやり方を繰り返して下さい.厳しい声で 「lie down」 をかけ,犬がそうしたら徐々に声を柔らかなトーンに変えてゆきます.少々,退屈な練習ですが,辛抱強く続けましょう.やがてあなたの Fido も,言われたことを守れなければ羊の元に行けないということを覚えます.最後には,リードの端を握っているヤツの言うことを聞かなければ,今夜のラム肉料理にありつけなくなることを理解するでしょう.
羊の元に行きたいという欲求が激しいほど,犬の学習は驚くほど早くなります.あっと言う間に,落ち着いた近づき方ができるようになるでしょう.これには大きなメリットがあります.まず,羊がリラックスした状態でいられます.例えば,散歩中にあなたに近づいて来る人がいたとしましょう.お供の犬がリードに繋がれていてお行儀の良い犬だったとしたら,あなたは何の心配もしないでしょう.ところがもしその人が,ピンと張ったリードの先でもがきながら歯を剥いている犬と一緒だとしたらどうですか? いくら犬好きでも不安になりますよね.羊だったら・・・絶対にそこから逃げたくなるでしょう.
犬があなたの横を静かに歩いていれば,羊との距離をより短くすることが出来ます.たとえその犬が,まるで熱センサ付きのミサイルのように頭を下げて睨みつけていてもです.羊に近づけば近づくほど,トレーニングはやりやすくなります.羊は,お互いに身体をくっつけてじっとしているでしょう.熱源センサーがONになっても止まったり伏せたりできれば,コマンドで犬を止めることもずっと簡単になります.
必要であれば,紐を使ってのコントロールもできます.長い紐もコードと同じような効果があり,とても便利な道具です.4.5mほどの紐を回転フック(swivel hook)を使って犬の首輪に付けます.犬を送り出すときはそれを離すだけです.これは,リードやコードに繋いでしまうのではなく,さりとて完全に犬を離すのでも無く,その間をとった非常に賢いやり方なのです.犬は引きずっている紐を意識するため,常に抑制の効いた行動をとります.意を決した犬を止める最後の手段は紐をそっと踏みつけることでしょう.ただし,急に引っ張られて犬が傷つく危険があります.紐は非常に便利ではありますが,やはり避けた方が無難かもしれません.
初心者ハンドラーは,犬のすばやい動きを警戒しすぎる傾向があります.とにかく犬を止めたがりますが,普通はそんな必要はありません.タイミングを注意深く見計らえば,若い犬でもコマンドで制止できます(最終的には).羊に害を与えていない限り,もう少し走らせてやっても問題ないでしょう.
コマンドをかけるコツは,犬が次にどう動こうかと頭を巡らす瞬間を注意深く捉えることです.遅かれ早かれ,この瞬間は必ずやってきます.犬が,羊の周りを永遠に走り回っても埒があかないことに気がつくからです.このとき,犬は立ち止まってあたりをきょろきょろするでしょう.その時がチャンスです.これを逃さず 「lie down」 を厳しい口調でかけましょう.前もってフセの練習がしてあって,多少の幸運があれば,犬はこれが一番易しい選択肢だと気づくでしょう.そうならなければ,数分後に訪れるチャンスに再度トライしてみます. 犬が伏せれば,間髪を入れずソフトなトーンで 「lie down」 をかけます.さらに,つぶやき程度になるまでだんだんとソフトにしながら,コマンドを繰り返します.このテクニックを提唱したのは Derek Scrimgeour で,彼の著書 「Talking Sheepdogs」 やビデオで紹介されています.目を見張るほど効果的なテクニックです.犬に何かをさせるためにシャープにコマンドをかけた後,次第にソフトなトーンにすることで,犬に正しく動いたんだという自信と安心感を与えます.またソフトなコマンドを繰り返すことは,今した動作を継続して欲しいということを犬に伝えることになります.
「ストップ」 の秘訣はすぐに行かせてやること!
まず,lie down がかけられてもゲームが中断するわけではないということを,犬に理解させることが重要です.したがってしばらくの間は,褒美として,犬がストップしたらすぐにまた行かせてやりましょう.ただこれには,沢山の抗議の声が上がるでしょうね.シャープなコマンドのあとにソフトなコマンドを繰り返すんじゃなかたのか? すぐに犬を行かせてしまうのに,一体どうやってトーンを優しくしていくんだ?
実際には,両方をおりまぜてトレーニングを始めてください.その時々でどちらを使うべきかは,あなたが判断します.犬をコントロールするのに手間取り,おまけに約束の時間に遅れそう...こんなときに犬を止めてリードにつなごうとしても,急に駆け出してどこかに行ってしまうかもしれません.でも,ストップの後にすぐに送り出してやれば,その次にはあなたのためにストップしてくれる可能性が高くなります.このストップ&ゴーを何度か繰り返して練習しておけば,犬にコードを付け羊とお別れすることがずっと簡単になるでしょう.
何かまずいことが起これば犬が自分から止まるなんて期待しないでください.この段階のトレーニングでは,逃走中の犬を止めるすべはありません.辛抱強く,犬が止まるか躊躇するまで待たなければなりません.そして,厳しくシャープな 「lie down」 をかけ,ソフトでフレンドリーに「l - i - e - d - o - w - n」 をつぶやきます.たっぷり自信がつけば,厳しい声を出す必要はなくなります.厳しい声はいざというときのために取っておきましょう.あなたと犬,そしてあなたの喉にも負担が軽くなりますよ.
犬をリリースする前に,できるだけ羊に近づきましょう.犬が羊の回りを走り始めたら,少しの間その行動を観察し,トレーニングをどう始めるかを決めます.穏やかな様子で羊の周りを回っていれば,あなたはラッキーですね.羊を挟んであなたの反対側に居続けるように犬を励ましてください.その位置にいるときは,暖かくフレンドリーな声をかけ,あなたの側に回ってきたときには,軽く唸ったり, 「Ahh-ah-ah」 など注意を促す声を上げます. 犬が羊の周りを走り回っても,むやみに止めさせないようにしてください.羊に対する熱意やエネルギーを削いでしまうかもしれません.普通はそれらがあった方が,トレーニング中のコントロールが容易になるのです.
ただし,一方向だけに回らないように注意してください.これがクセになると矯正が難しくなります.両方向に周回させるようにしましょう.
良い動きを励ますようにしてください.例えば,群れの中に入るのではなく,羊から2,3フィートの距離を置くような動きです.犬が方向を変えそうな瞬間を見計らい,その方向と一致するように 「come-bye」 か 「away」 コマンドを静かにかけます.びっくりするほど速やかに応答するようになるでしょう.次に,犬が方向を迷っているときにコマンドをかけてみてください.いつもその方向に動くようなら,あなたは犬をコントロールしつつあるのです.
羊が浮き足立っていれば,その前に回りこんでストップをかける "heading" は難しいかもしれません.このような場合には,ハードルやフェンスで円形の囲いを作ることをお勧めします."シープハードル" が25〜30コあれば簡単に作れます.新しいものが良ければ地元の農機具店で,中古でよければ農家や農場セールで購入できます.農家では間違いなく乱暴に扱われていますので,中古をもとめるときは充分注意してください.ハードル間の継ぎ目がきちんとフィットしないと使い物になりません.売り手が使い方を教えてくれると思いますので,それらをフィールドで組み立て大きなサークルを作ります.
できれば,フィールドのフェンスの近くに組み立ててください.1〜2個のハードルをフェンスに向けて開き,羊をドライブして追い込む場所を確保します.犬が外を周回できるように,囲いとフェンスの間には距離を開けておきましょう.もし犬が,フィールドの端に固まる羊を動かすのに苦労しても,こうしておけばあなたが状況をコントロールすることができるでしょう.トレーニングセッションの終わりに,囲いの中で羊に食べ物を与えるのもよいアイディアです.農業品店で売っているシープナッツや大麦などを桶に入れて与えます.上手くいけば囲いへのドライブが容易になるかもしれません.まぁ羊相手のことですから,保証はできませんのであしからず!
どうしても囲いに追い込めない場合は,ハードルをそのままにしてフィールドを去り,中にエサを入れた桶を置いておきます.毎回羊のために少しばかりのエサを置いておけば,あなたが姿を見せたとたんに駆けて来るようになるでしょう.羊もコントロールできたわけです! エサを持って囲いに中に入れば,羊もついてきますから,すばやくゲートを閉めればOKです.友人に頼んで,ゲートを閉めてもらえればもっと良いでしょう."シープナッツ" は農業用飼料店で簡単に手に入ります.
羊は,犬がそばにいることを好まないものです.犬が羊の移動を邪魔するケースもありますので,羊を囲いに追い込む時は,姿(や気配)の見えない場所まで犬を離すか,リードに繋いであなたと一緒にいるようにしてください.
フェンスに対してハードルを開け,フェンス沿いに羊を追っていけば,ハードルが囲いへの "吸い込み口" になるはずです(少なくとも理屈では).このとき,リードに繋いだ犬を連れて歩けば,囲いに追い込むことがさらに簡単になるでしょう.この経験は,drive 練習を始めるときにそれがどんな動きなのかを犬が理解する助けにもなります.
これはドライブの基本を教える伝統的な方法ではありませんが,有効なんです.犬の後ろを歩く時に,彼を励ますように 「walk up」(もしくは,drive に使おうとしていることば)と声をかけます.ただしこのトレーニングの段階では,羊をまとめてあなたの元に連れてくることを優先する必要があるので,この方法を使い過ぎないようにしてください.
羊を囲いの中に入れたら,犬にその外周を回らせ,羊をホールドするように励まします.理想的には,あなたも柵の外を回って犬をあなたの対角の位置に動かすようにするのが良いのですが,最初は,柵の中に入ってもかまいません.犬の周回運動が奨励できるなら,羊の真ん中に立つのもOKです.
これに自信がついたら,犬をサークル内に入れ, 「come bye」 「away」 「stand」 「lie down」 などで指示しながら,羊をあなたの元に集めるように犬を促します.この状況をコントロールできるようになれば,囲いを外して同じ練習を始めます.万一混乱してしまったら,ハードルに戻って練習しますが,それでも犬の反応と羊のコントロールは前より上達しているはずです.
実は,これはとても大きなマイルストンなのです.ストップと flank が安心してできれば,犬は目覚しく上達しています.柵の中にいる間に,羊は,あなたのそばが最もストレスのかからない場所であることを覚えるでしょう.最後には置物のようにあなたの足元にまとわりつくようになります.これは,羊が "犬馴れ" したと言われる現象であり,あなたが変えてやる必要があります.ファーマーたちはいろんな程度に "犬馴れ" した羊を揃えておき,子犬のトレーニングにはより馴れた羊を,経験豊富な犬にはもっと手強い羊を使ったりします.
止まったり他所に行ってしまったりせずに,犬が羊の周回にこだわるようなら大丈夫です.うまくスタートが切れたと思って安心してください.このまま,羊の向こうへいる時は優しいトーンで,羊とあなたの間に入ったときは軽い唸りや厳しいトーンで声をかけることを続けてください.きっと成功するはずです.
犬があなたの元へ寄ってきたら,その彼に向かって歩き出すことであなたの要求を強調することもできます.
もし犬が時計回りであなたの元へやって来たら,優しく励ますトーンで 「away」 をかけながら足を踏み出します.これに耳を傾けなければ,腕で行く手を遮ります.もちろん,怒鳴ったり腕を振り回して止めさせることもできるのですが,先にも述べたように,これは最後の手段にしましょう.まぁ避けた方が賢明ですが.
ラミングロープ(lambing rope)を使っても,犬を引き返させることができます.30cmくらいに折たたんで,犬に向かって歩きながら手首で振り回します.しかし,犬は声色と身振りであなたの考え(満足しているか,そうでないか)がわかるのですから,腕を回しながら走り回る必要は無いと思います.この方法を使うにしても,初めのうちから,段々と使わないようにしていってください.
できるだけ早い段階で,両手をポケットに入れたまま犬をコントロールできるように目指してください.犬は,あなたの身振りではなく,羊に集中しながら音のコマンドに従うことを学ぶ必要があるからです.犬にかかるプレッシャーが少なければ少ないほど,初期のトレーニングが上手くいきます.腕を振り回したり怒鳴ったりするより,優しく促すことを根気よく続けた方がずっと良いのです.やがて実を結ぶまで,この初期段階の励まし(と羊の周囲を回ること)にじっくりと取組んでください.きっと良い収穫が得られるでしょう.
羊を止めることが犬の本能の基本であることを忘れないで下さい.あなたが羊を挟んで犬と反対側のポジションにいれば,羊はそこで止まっています.犬があなたの方に向かってくれば,あなたは自分の身体を盾にして犬を追い返したくなるでしょう.このとき,羊に対して犬とあなたが同じサイドに位置することになるので,羊は向こうに逃げようとします.そこで,犬は彼らの前に立つために再び反対側に引き返すわけです.
犬が羊の反対側の位置をキープするようになったら,今度はストップをかける練習を始めます.これもプレッシャーにならないよう励ますようなトーンで声をかけます.ただし,「本気で止まって欲しいのだ」 という意思を込めて,毅然と指示して下さい.犬を止めるときには,羊がちゃんとコントロールされているという感覚を,犬自身が持っている必要があるということもお忘れなく.
あなたの犬に,周りを回るより羊に突っ込んでいく傾向があっても,ご心配には及びません.前述のように,囲いを組み立ててその外を走らせれば OK です.犬を捕まえるのが難しいなら,ロングリードを使い,その一端を踏みつけながら周りを走らせます.リードを踏みながら,幾分厳しいトーンで 「Lie down」 か 「stand」 と指示します.犬が止まれば,段々とソフトな声でコマンドを繰り返します.これで犬には,すべてが順調で正しく行動したことを理解させることができます(彼には選択の余地は無かったんですが!).
犬がストップしたら,すぐにリリースしてやり,「shhhhh」 の合図で行かせてやることが重要です.「Lie down」 や 「stand」 でお楽しみが終るのではなく,ちょっと休むだけだということをすぐに理解するでしょう.充分コントロールできていると感じるまで,囲いの練習を続けてください.その一方で,現実的な(=おもしろい)状況にするため,できるだけ早い時期に囲いを外せるように頑張ってください.これはロングリードの利用に関しても同様です.犬は上手くできるけれど羊が慣れないといった場合は,フェンスを一辺に利用して囲いを広げてください.羊は動かずにそこに群れてしまう傾向があるので,かきね(hedge)を使うのはあまりお勧めできません.
フェンスを使って囲いを大きくすると,円形ではなく "D" の形に近くなります.囲いが大きくなればなるほど,ハードルの並びが直線的になるので不安定になります.補強のために,ポストかペグを打ち込むといいでしょう.やり方がわからなければ,トライアル競技者やファーマーなど経験者に訊くのが一番です.
犬に関してどんな問題があろうと,必ずあなたはそれを解決できる...このことを忘れないで下さい.彼がどうしてその行動をとるのか,そしてそれを修正するためにトレーニングをどう変えれば良いのか,この2点をじっくり考えましょう.
犬は,単にあなたを助けようとして,自分の判断で動くことがあります.例えば,あなたがセッションを止めようとして犬にストップをかけたとします.この意図が通じていなければ,あなたが犬に向かって歩き出したとたんに,彼は羊の方にダッシュするかもしれません.こんなときも,彼はあなたに逆らったのではなく,おそらく羊が逃げ出すのを阻止したかったのでしょう.
犬がさらに技術を向上させていくと,その賢さにびっくりされるでしょう.声や笛のトーンから,きっちり伏せるべきか,単に立ち止まればいいのか,それとも今のペースに注意するだけでいいのかを判断します.ただし,これは徐々に訓練していくものです.今の段階では,フセのコマンドがかけられたらその通りにするべきです.コマンドを常にシンプルに保ち,後で成果が上がってくるのを楽しみに待ちましょう.
Gripping
Grippingとは,通常,犬が羊を引っ張る行為を指します.これを放置しておくと次第に攻撃的になります.大きな羊でも,地面に引き倒すことくらい犬にとっては簡単です.非常に悪い習慣ですので,断固として止めさせるべきです.羊に危害を加えることが出来ないくらい若い間に矯正するのがベストです. このような理由(と,これが攻撃的な行為であるという事実)から,ハンドラーは gripping に対して感情的になりがちです.トレイナーやハンドラーがパニックに陥ると事態が悪化してしまいます.Grip する犬は,神経質であったり,混乱や興奮,あるいは怯えた状態にあるからです.怒鳴りながら追いかければ,もっと状況を悪くしてしまいます.頑固に grip する犬 (gripper) に対して,馬のムチまで振るう人がいると聞いたこともあります(この記事を書いているときにも聞きました).
私の最初の犬である Dot は gripper でした.幸いなことに,彼女は小柄でまだ若かったため,羊に怪我を負わすことはありませんでした.しかし恐ろしく感じた私は,彼女を売った人に電話して,引き取ってもらうように頼みました.その人は承知してくれましたが,それが決定的な問題ではなく,もし私がリラックスして臨めばそのうち止めるだろうとアドバイスしてくれました.
次の日,Dot はやはり grip しましたが,私は唸り声を出すと同時に 「come bye」 をかけて安心させてみました.そのセッション中にさらに一〜二度, grip しましたが,その都度同じようにしました.それから2,3日たって,Dot は grip を止めました.犬の売主が正しかったのです.
もしあなたの犬が grip したら,それを叱責するよりも無視した方が良いでしょう.そして,他のコマンドで良い行動を促しましょう.Grip した犬はその時点で心のパランスを欠いていると言えます.叫びや怒鳴り声は事態を悪くするだけです.
どんなトライアルでも,普通, grip は失格の対象です.でももっとよく観察してみて下さい.それが起こるときはいつも,何か悪い状況が起こっているはずです.一番よくあるのが,一頭の羊がダッシュして群から離れようとしたときで,特に Penning や Shedding のときに多く見られます.コースの大半を回ってきた犬は,肉体的にも精神的にも疲労しており,気持ちが荒々しくなっています.犬が grip する傾向があるときは,あなたが犬をプッシュし過ぎているのかもしれません.もっと簡単な仕事にしてみましょう.指示をはっきりとし,より励ますようにして下さい.できるかぎり,犬に話しかけてみましょう.ソフトに安心させるように声をかければ,gripping もずっと減るはずです. このリラックスさせる方法でも効果が無ければ,あなた自身がすばやく行動して止めなければいけません.初心者で自信がなければ,ただちに助けを求めましょう.
アドバイスを提供してくれるトレイナーやハンドラーは沢山いるし,トレーニング会に参加するのもいいでしょう.もっと良いのは,トップハンドラーに(予約して)会いに行くことです.多少のお礼で,犬が若いうちに問題に対処する方法を教えてもらえるでしょう.犬が成犬なら急を要する問題になりますが,基本的に同じ方法で対処します. 犬は羊に危害を加えてはいけない...これが最も大切な点です.Gripping で羊が傷つくことを止めさせられないなら,犬を羊から隔離して専門家に助けを求めるか,あるいは問題を解決できる誰かに譲ってしまう必要があります.犬の譲り受け先には,深刻な grip 癖があることを決して隠さないで下さい.
Eye
動き回らずに,立ったままかあるいは伏せの姿勢で羊を見つめている状態を, 「"eye" を使っている」 と表現します.Eye はボーダーコリーの特徴の一つで,羊のコントロールに非常に効果的です.しかし,これが強過ぎると一種のトランス状態になり,コマンドにも応答しなくなってしまいます.このレベルの "eye" を使っているようなら,あなた自身が犬の周りで羊を動かしてやります.羊が動いていれば eye は使えません.しばらくすると,コマンドに応えるようになるでしょう.
どんな問題が起こったとしても,自分自身と犬を信じましょう.現実的に対処し,犬に教えてもいないのに教えたはずだと,自分を偽らないでください.Lie down は,いかなる時でもその意味通りであるべきです.止める術を持たずに犬に行かせてしまっているなら,あなた自身が問題を作り出しているのです.今教えていることに毎回正しく反応するようになるまでは,新しいことに挑戦するのは我慢した方がよいでしょう.
犬を止められなければ,トレーニングでの上達は望めません.まずはこれをきちんと教えましょう.人間は視線で羊を動かすことはできませんが,実は私たちも eye を持っています.犬の目を深く覗き込みながらシャープにコマンドをかければ,驚くほど有効なことがあるのです.手や杖で犬を指し示すようにすれば,やがて犬はそれがメッセージであることを理解するでしょう.ただし,視線や手のシグナルの利用は最小限にしてください.使いすぎると,羊よりもハンドラーの方を見るという悪い癖がついてしまいます.
あなたがリーダーであり,指示通りにしないときは楽しみも終わりだということを犬に示してください.自分がいなくても犬は勝手に楽しむんじゃないかとお考えかもしれませんね.試しに stop を聞こうとしないときに立ち去ってみてください.後ろをふり返らず,なんならフィールドの外に出てください.犬は少しは作業を続けるかもしれませんが,普通は自分が取り残されたと悟り,飛んで帰ってきます.トレイナーが立ち去ったとたん,ほとんどパニック状態になった犬を見たことがあります.
Driving
Drive の教え方については,実にいろいろな意見があります.牧羊犬トレーニングの中で一番難しいと言うトレーナーもいますが,私は必ずしもそうとは思いません.とにかく羊の向こう側に行き,lie down と get up に従いながら羊を連れてくる...これを犬が頭を使わずに行うようにトレーニングしたとします.そしてこのたった一つの動きを完璧にこなし,犬の頭に染み込むまでトレーニングを続けたとします.こんな犬にいきなり drive させようとするから,トラブルが発生するのです.
ボーダーコリーは非常に聡明です.一度に幾つものことを学ぶことができます.同じ言葉を違う状況で違った意味で使っても,彼らはそれを学習します.例えば左回りの outrun を 「come bye」 で教えれば,彼らはいつでもそれに従うでしょう.コマンドを縮めて 「come」 にしても,やはり従います.そして,離れた位置からこちらに来させるために 「come」 と言ったとしても,犬はその違いを理解してそれに従います.
同じように,短い outrun と gather を教えて,その後で drive を教えるとします.これだと教えるのは簡単ですが,犬も羊もハンドラーも,レッスンが退屈になるでしょう.羊の周りを回って連れてくるのがそこそこ上手くなれば, drive の練習を始める時期です.
運が良ければですが,初歩的な Driving は1回のトレーニングセッションで教えることができます.まず,犬を羊の反対側に行かせ,そこで止まるように指示します.それから,あなたから犬の方に歩いていきます(羊の中を突っ切っても,外側を回ってもかまいません).必要であれば,ソフトなトーンで 「 l - i - e - d - o - w - n 」 を繰り返します.犬から数フィートの地点まで来たら,羊から犬へと顔を向けます.そして,犬を見つめながら 「walk up」 (あるいはあなたが driving に使いたいコマンド)と指示します.
もちろん,それまでに "walk up" の意味を教えていなければ,彼にも何のことか見当がつきませんが,何かの行動が求められていることは理解するでしょう.そして,おそらくはあなたから離れる方向に向かって,羊に flank するようになるでしょう.あらかじめ心の準備をしておき,これが起こったときにすかさずストップをかけます.彼はまだあなたの意図をきちんとは理解していないでしょうから,彼に "止めさせる" ことが目的ではありません.だから,あまり声を厳しくしないでください.呼び戻して,同じことを何度か繰り返してください.犬が flank せずにまっすぐ羊に向かって歩いたら,静かに誉めてストップさせます.上手くいけば羊は少し進みますので,この練習を繰り返すことができます.
練習を繰り返せば,羊にまっすぐ歩いていくたびにやさしく誉めてもらえるので,犬はそれが正しいやり方だと理解するはずです.数分間試してみてうまく行かなければ,犬をコードにつないで羊の後ろを静かに歩きながら,「walk up」 と繰り返してみましょう.羊が逃げ出しても慌てず, 「walk up」 を伝えながらついていって下さい.犬が何かを掴んだようなら,コードの一端を離して,何事も無かったかのように歩き続けましょう.
どちらの方法とも効果がない場合には,奥の手があります.羊がフェンス際かフィールドの端にいる時を狙い,犬にロングコードをつけてその背後を歩きます.この方法だと,犬はあなたから離れる方向に flank することはできませんし,かといってあなたに向かってはしたくないはずです.その結果,犬は羊の後ろをまっすぐ歩くようになります.最初からこの方法を選択したくなるかもしれませんが,コードやフェンス無しでできるなら,わざわざ試す必要もありませんね.
羊の後ろを歩くことに犬が少し自信を持ったら(犬は何か間違ったことをしていると承知していて,そんな彼らを観察するのはなかなか愉快だったりします),flank を要求してみます.これまで教えてきたこと(=彼らが本能的にしたくなること)とは逆のことを要求してるわけですから,声のトーンは特に優しく,また安心させるようにしてやってください.それから,両方の動作を組み合わせます(混乱しちゃいますね!).
シープドッグ・トライアルの運営母体は International Sheepdog Society (ISDS) です.イギリスではさまざまな種類のトライアルが催されています.
何をどうするのか?
イギリス諸島で開かれるトライアルの形式はほとんど同じです.ハンドラーと犬はコースの端に立てられたポストに位置し,羊はもう一方の端にある "release pen" に入れられて待機します.コースの地形は特に決まっておらず,平地であったり山すそであったりします.
"Letters out" の合図とともに3〜4頭(メジャーな競技の場合はもっと)の羊が放され,数メートル離れて立てられたペグのところまで静かに誘導されます.なぜかはよくわかっていませんが,羊はペグのあたりに留まります.
準備が出来た頃を見計らい,ハンドラーは 「Shhhh」 やソフトな声のコマンドで,犬に outrun を命じます.1〜2人の審判がポストから数メートル斜め後ろの自動車やトレーラーの中に控えます.その日のすべてのランをチェックし,それぞれに得点をつけます.
犬はコースの右サイドか左サイドを通って羊の後ろに回りこみます.羊の真ん中を突っ切ったり,動揺させてはいけません.羊を集めたり "lift" してからハンドラーの元に "fetch" する前に,羊の後ろ側で一旦伏せるかあるいは立ち止まらなければなりません.
審判は犬の全般的な作業形態と,ラインがストレートかどうかをジャッジします.ペグとポストの中間辺りには "fetch gate" と呼ばれる数メートル幅のゲートが置かれ,そのゲートを通して羊を連れてこなければなりません.このとき,ハンドラーはポストを離れてはいけません.もし離れたとすれば,それはその試技(ラン)をあきらめたというサインです.
fetch gate を通過した後,犬はさらに羊をハンドラーの元に移動させ,一旦通り過ぎてからハンドラーの周りを回ります.回る方向は競技が始まる前に申告します.ハンドラーの後ろを回った犬は,再びコースを向かい,やはり競技の前に決めた右か左どちらかのゲートまで羊を移動させます.
このステージは "drive" と呼ばれます.羊はこれらの "drive gates" を通過してから,今度はコースを挟んで逆のサイドにあるゲートに向かわなければなりません.このステージを "cross drive" といいます.
ここでも,犬が静かにかつ自信を持って羊をコントロールしていること,移動ラインができるだけ直線に近いことが重要です.最後の drive gate を通過すれば,犬は羊をハンドラーの元に連れ帰り,ポストの前に位置する "shedding ring" と呼ばれるサークルの中に誘導します.
ハンドラーはここで初めてポストから離れ,サークルの中に入って羊と対面します.あらかじめ決められた頭数の羊を群から引き離し,審判が適切と判断するまでその状態をキープします.これが "shedding" です.その後,羊たちは再び一つにまとめられ,コートの端にあるペンの中に誘導されます.
ハンドラーはペンの扉を開けた後, 1.8m のロープでコントロールします.羊が囲いに入るまではロープを放してはいけません.扉を閉めることがランの終了の合図です.
ランを通じて,犬もハンドラーも羊に触れることは許されていません.もし犬が噛みついたり "grip" すれば,失格の対象になります.コースが "right-hand drive" 用に設計されていれば,ハンドラーの右手サイドの drive gate を通るように羊を誘導しなければなりません. 羊の何頭かがゲートの通過をミスしても,やり直しは認められていません.また,羊が一旦 shedding ring に入れば, shedding が終わるまでその外に出してはいけません.
それから,扉を使って羊を囲いに押し込んでもいけません.あくまでも,優しく!
ランが終了すれば(もしくはハンドラーや犬が途中でリタイアしたり,時間切れになれば),羊は犬によって 「お疲れペン(exhaust pen)」 に誘導されます.この誘導を専任の犬が担当する場合もありますが,それでもランが終了するなり知らん顔で退場すれば,嫌な顔をされるかもしれません.犬があなたの代わりに仕事してくれるのを見守るのも,あなたの大事な役割だと思っておいた方がよいでしょう.
このようにトライアルは,農場での仕事をできるだけ忠実にシミュレートするようにデザインされています."outrun" はフィールドや山すそから羊を集めてくる作業です.さまざまな作業−例えば羊毛の刈り込み(shearing)や肢のケア,マーケットに出す羊の選別などのために,農場では数頭の犬が共同で作業し,何百頭もの羊を集めることがあります.
羊作業のいろいろな動作の中でも,Lift はそのハイライトといえます.犬が近づいてくるときに羊が慌てたり動いたりしても,普通の農夫はそれほど深く悩みません.しかし,lift をスムーズに落ち着いてできるようにすることは,非常に良い練習になります.ラインがまっすぐなほど羊を連れてくる時間は短くなりますから,"fetch" が直線的にできることはとても重要です.
まぁそれでなくても,農夫たちは物事がまっすぐかどうかにこだわるものです.自分の畑のが少し曲がったので,隣からあぜを借りてくるなんて話,聞いたことありませんか?
"drive gate" へのラインをオーバーシュートすることなくハンドラーの後ろを小さく回り,さらに "shedding" リングまでのルートをきれいなターンとまっすぐなラインで構成できれば,そのランは美しく整ったものになります.これはもっとも重要なポイントの一つです.フィールドに描いた,羊選別のアートと言えます.
大きなトライアルでは,shedding すべき羊は色で区別されています.農夫や羊飼いも,特定の家畜だけを群から引き離す必要があるので,これはより実際的な設定と言えます.もちろん,難易度はずっと高くなります.
最後に私たちはペンに到着します.実際にも羊たちを特定の場所にまとめなくてはなりませんから,これも明らかに現実的な作業ですね.
若い犬に対して作業を易しくするため,入門クラスでは "shedding" 作業がありません.