私は人生の大部分を,ボーダーコリーをトレーニングし,彼らと仕事をすることに費やしてきました.
プロの羊飼いや農夫たちだけでなく,家庭犬のオーナーからも数え切れないくらいの話を見聞きしてきました.
この知的な生き物に対する私の情熱は,やがてこれまでに得た知恵を書いて残したいという望みになりました.
この冊子に記された内容が,あなたの犬をより深く理解する助けになれば幸いです.
今見ることができるボーダーコリーの行動は,すべて彼らの起源に関係しています.
あなたに対する態度でさえそうなんです!
ボーダーコリーは,狼を祖先に持つ群れ犬(pack dog)です.彼らは頭を使う捕食動物であり,その思考と行動はすべて群の本能(pack instinct)に関係があります.
ただ,群れ犬の基本的な行動様式を知るだけでは,コリーの頭の中を理解するのには十分ではありません. 私たちは,なぜ彼らの思考がある一定のパタンに従うのかを理解するため,彼らの内面を探る自分たちなりの道を見つけなければなりません.
私たちは,彼らと同じように考える術を学ばなければならないのです.この方法で,彼らの考えを読み,実際に身体を動かす前に彼らの行動を導くことができます.
新しい子犬が家庭にやってきます.かわいらしい,ふわふわとした毛玉です.こんな時分でさえ,子犬はあなたを群のリーダーとして見ています.
あなたは子犬の一生に重要な役割を果たしています.もし子犬があなたやあなたの子供を兄弟と見なしてしまえば,あなたを尊敬する理由はなくなってしまうのです.
兄弟犬たちは,遊びながら互いに歯を当てたり噛みついたりします.犬は歯を使って優位に立とうと,常に機会を伺っています. もし子犬が子供を兄弟と見なせば,歯を使うのを止めようとはしないでしょう.もちろん,許せる行為ではありません.
もし子犬が支配的な性格でなければ,人間の(特に)子供たちによって簡単に混乱させられてしまうでしょう.子犬は疲れたときでも「やめて」と訴える術を持たないからです.
また、子犬の兄弟はお互いを助け合うのであなたを必要としないことがあります.よほどの自信がない限り,同じ月齢の子犬2頭を同時期に迎えるのは賢明とは言えません.
あなたは群れのリーダーとして,子犬をあなたの縄張りに連れてきました. 箱やベッド,部屋の隅やケージなど適当なもので良いのですが,子犬に子犬自身の場所を与えてやらなければなりません.
注意:子犬の場所はあくまで子犬のものです.子供や他人は遠ざけるべきです.
普通,私は犬小屋の類(ベニヤ板とメッシュのドアでできているような)か,輸送用のクレートをお勧めすることにしています. クレートは子犬のプライバシーを守るには十分ですし,掃除も簡単です.車に載せて運ぶときには,犬の安全を確保することにもなります.
小屋を日常的に使っている子犬であれば,あなたが忙しいときや犬を残して出かける必要があるときに,長時間でなければ,鍵を掛けておいても大丈夫です. 帰宅したときに部屋が汚れたり壊れたりしているのはたまりませんからね.誰だって頭に血が上るでしょうし,子犬はそれを感じ取ってしまいます.
もし箱の中で眠っていれば(うろつき回れるような小屋でなければ,普通,子犬は骨を齧った後に休みます),子犬はあなたと会うことを喜ぶでしょう. これでいろいろなトラウマを避けることができます.
子犬が小さければ,箱の半分をベッドとし,残りの半分に紙など子犬が安らぐものを敷いてあげるといいでしょう.子犬は自分のベッドを汚しません.
トイレトレーニングについてはいくつかの意見があります.
新聞紙はポピュラーですが,匂いが残ります.子犬は自分の匂いのマークのある場所に戻ってくるので,プラスチックやリノリウムなどを下に敷いておく必要があります. 砂や土を敷いたトレーも良いアイデアです.外で用を足すことを覚えさせやすいでしょう.
家の中で失敗したとき,大声で叱りつけてもまったく意味がありません.
シンプルではっきりした 「No」 で十分であり,どこで用を足すかを示してやりましょう. ボーダーコリーは論理的です.ものごとを筋道を立てて教えれば,より素早く応えてくれるでしょう.
もう少し成長した子犬を見てみましょう.子犬にはたくさんのおもちゃは必要ありませんし,子犬のものはあなたの所有物です.
犬の立場で考えてみましょう.
もし犬がたくさんのおもちゃを所有していて,それであなたと遊ぶとすれば,どうしてあなたの 「おもちゃ(靴やリモコンなど)」 で遊んではいけないと判断できるでしょうか?
ところで、犬がもっと成長していたり,あるいは外で飼っているなどの理由で,これが関係の無い話と感じていらっしゃる方もいらっしゃるでしょう. そんな方にも,犬の心理を理解することの重要さは,重ねて強調しておきたいと思います.
さて,これで子犬には自分のベッドとおもちゃが与えられました.子犬は自分のベッドでは自分のおもちゃで好きなだけ遊ぶことができます. もし子犬が自分の場所以外でおもちゃを齧り始めたら, 「No」 と言いながらおもちゃをとりあげましょう. これは,彼がベッドの外で何かを齧ろうとする毎に繰り返さなければなりません.子犬はベッドの中で骨を齧ることは許されますが,あなたの小屋(家)で齧ることは許されません. 少し成長すれば,ベッドにいるときだけおもちゃで遊んだり,骨を齧っても良いんだと理解するようになるでしょう.
部屋の中で,子犬がおもちゃを持ってきてあなたに遊びをせがむときは,それを取り上げて一旦下に置きましょう. そして数分の時間をおいてから,あくまであなた主導で遊ぶようにしましょう. リードを咥えてあなたの周りを飛び跳ねるようなときも,それを一旦下に置きます.あなたがいつも自分の望みどおりに動いてくれると,犬に思わせてはいけません.
子犬は小さくてかわいいですが,成長すれば手強い犬になります.子犬の心は5歳の子供のそれと同じです.子供をわがままに育てたいとは思わないですよね!?
子犬が成長してから引っ張りっこゲームをするときは,あなたが始めと終りを決めるようにしましょう.
欲しいものを獲得するのに、けっして歯を使うことを覚えさせてはいけません.
また、野性の中で獲物を殺すとき,犬が吠えまくることを覚えておいてください.あなたが騒ぐということは,犬を極度に興奮させることになります.
例えば,骨を取り上げるとかエサ皿に近づくとか,何かの原因で人間に対して攻撃性を示すような犬は,ハンドラー(群のリーダーとは見なしていません)がリードを引っ張って叫びながら,攻撃を援助してくれているものと勘違いしている可能性があります.
注意:正しく対処しなければ,攻撃性は代表的な問題行動になってしまいます.
ここまでで,子犬をしつけ,穏やかに暮らす方法が頭の中にイメージできてきたと思います.
もし,犬が始終あなたの後をついて回るときは,しばらくの間,他の部屋で待たせてみましょう.もし,犬がついて来ないなら,ついて来るようにしましょう.
一見すると優等生の犬たちはたくさんいます.でもちょっと注意して見ると,それは彼らが好きなようにふるまっているだけというケースが,非常に多く見られます.
例えばこんな光景があります.
オーナーがお茶の準備をしてリビングに入ってきました.フィドはトラブルを起こしません.オーナーについていくこともあれば,そうでないこともあります. リビングにいるときは,寒くなれば火のそばで,暑くなればドアの横に横たわっています.疲れれば,奥の部屋に行って休みます.
子犬は2つのスペースを持っています.行動できないブラックエリアと,行動してもよいホワイトエリアです. これが理解できれば,そのどちらでもないグレイエリアでも生活することができます.フィドはグレイエリアで生活していることになりますが,彼は自分でそうすると決めただけで,それが許されていることを理解してはいないのです.
彼は明らかに自分が対等だと思って生活しています.フィドは問題犬に育ってしまったのです.
感触に慣れさせておく必要があるので,小さいうちからリードをつけてみましょう.短い時間でリードトレーニングをし,やさしい感触に慣れさせます.
注意:リードトレーニングに何日もかける必要はありません.
注意深く,うまく励ましながらトレーニングすれば,子犬はほとんど一度きりのレッスンでリードに慣れます.家の中であなたの元に子犬を呼び,あやしてやりましょう. こうすることで,あなたとコンタクトすることを楽しみにするようになり,同時に呼びも学びます.
リードを使うときは,子犬があなたの前を歩かないようにしましょう.群のリーダーと勘違いする原因になります.
見かけでフードを選ばないようにしてください.あなたは殺してから3日も経ったウサギやその毛皮を食べたりしないでしょう. 逆にあなたにとって魅力的なフードも,犬にとってそうとは限りません.
最初の数週間で,子犬は倍程度のサイズになります.その後,成長の速度はスローダウンします. したがって,子犬の成長期を通じてずっと同じレベルの栄養を与えるのは理に適っていません.
母犬と一緒の子犬は,栄養バランスの良いミルクを摂っていますが,離乳すれば固形物を食べるようになります. 最初の2〜3週間は,1日に4回も食べる必要があります.そのうち,2回がたんぱく質中心の食餌,残りは粗質食料(腸の動きを促進するような栄養価が少なくかさが多い食料)になります. ボーダーコリーの場合,たんぱく質の割合が27%以上の子犬用フードはお勧めできません.これには異論もあるでしょうが,ボーダーコリーの経験が豊富でそれなりの自信が無ければ,24%以下のフードを与えた方が無難です. 私の場合,成犬用フードに肉や卵などを加えて与えてます.
もちろん,犬や繁殖ラインには個体差があります.あなたの犬が控えめでおとなしい子であれば,それほどたんぱく質レベルに神経質にならなくてもいいでしょう. エネルギッシュな子犬の場合(大抵はそうですが),高たんぱく質のフードを与えるのは賢明ではありません.
3〜4ヶ月であれば,脂肪とたんぱく質が半々のフードを日に3回ほど必要でしょう.5〜6ヶ月では2回くらいになります. ただし,これらはあくまで目安です.犬には個体差があるので,何があなたの犬にとってベストかを,あなた自身が見つけ出さなければなりません.
成犬の場合は20%を超えないたんぱく質レベルを目指します.世の中には,そこそこの値段で高品質のフードがあります. 私の犬たちには20%のフードを与えていますが,彼らは農場で働いています.仕事をしていない場合はもっと低い割合で良いはずです.
犬の消化システムは24時間稼動しており,成犬には1日に1回の食餌を与えます(医療的な指示がある場合はこの限りではありません). これまで,高タンパク食を続けてきた犬の場合,そのレベルを下げるためには時間をかける必要があります. 犬のエネルギーレベルを下げるためには,10日間ほど水で作ったポリッジ(訳注:オートミールに牛乳または水を入れて作ったかゆ)を与えると良いでしょう.
タンパク質16%のフードも手に入りますが,仕事の無いエネルギッシュなコリーには適していると思います.
注意:いずれにせよ,食餌はあなた自身が考えるべきテーマです.試すことをためらわないでください.
ただし,[高レベルのタンパク質と脂肪=高エネルギー]であることを忘れないでください.
注意:ボーダーコリーを服従的にするべきではありません.
犬が飛び掛ってきたら "No" と言いますが,これを,伏せをさせる意図で使ってはいけません.それ用の(例えば "lie down" )コマンドを使いましょう.
例えば一晩中抜け出さない確信がなければ,「ベッドに行ってスティしてなさい」 とは指示しないようにしてください."Wait" コマンドを使ってください. ただし,これを使う場合は,犬が動く前に "break" コマンドをかけるようにして,勝手に犬が判断して動かないようにしてください.
"stay" を教える場合,これは重要なことです.犬が動いてしまってからコマンドを繰り返すのでは遅すぎます.犬をよく観察し,わずかな身動きがあった瞬間に "stay" をかけ直すようにしてください.
注意:"stay" は唯一,繰り返してもかまわないコマンドです.
いつも犬の身体の動きを観察し,犬と会話することを学びましょう.
悪さをしても 「首根っこを引っ掴む」 のは止めましょう. 子犬でも,群のリーダーが首根っこを掴んだときに報復のために死に物狂いで牙を使うときがあります. よく犬の扱いがわかっている人にとっては効果的な方法かもしれませんが,コントロールすることを学んでいるあなたにとっては不適切です.
犬にリードをつけその一端をしっかり持ち,犬を伏せさせ,カラーに近い箇所を踏んで犬を地面から動けなくします. わざわざ危険を冒さなくても, 「首根っこを引っ掴む」 のと同じ効果があります.
"lie down" にすぐに応えない場合,あなたの足でリードを踏んで,形を作ってやってください.ただし,これはすでに "lie down" の意味を理解している犬に対する方法です. まだ理解していないような犬は,意図してあなたに挑戦するほど成長していません.
最後に一つ覚えておいて下さい.あなたが犬に何かをするように指示して,犬が応えなかったとしても,指示を繰り返してはいけません. 最初の指示に従わないようなときに,2度目に従うという保証は無いからです.もし従ったとしても,犬は次から2度のコマンドを期待するようになります. あなたが 「指示している」 んだということを,明確に示してください.
私は "lie down" を5回繰り返し,6回目にようやく本気になって,犬がそれに従うといった光景を見たことがあります.最初の1回で意図を伝えるようにしましょう. もちろん,犬ははっきりと聞いていますから,声を張り上げる必要はありません.必要なのは明確で落ち着いた声だけです.
最初に迎えたころは,ユーモラスで賢くていろいろ考える子犬でした.
いつしかあなたは、あなたを愛し、尊敬してくれる友達であり、かつ仕事仲間である犬との生活を楽しむことができるようになるでしょう。
彼らは驚くべきユーモアと誠実さを兼ね備えた犬に成長するのです。
それこそ,知的で思慮深いボーダーコリーなのです.