「[羊]を発見するや,かのものは静粛かつ迅速に行動せり.やがて歩みを止め,かの地より進まず.身を潜め近くより見張るべく,腹部を地に接したり.」...Caius.「...その犬は,[羊]が逃げようとしたときには,弧を描いて前に回り込み,そこでポイントを作り直そうとする.」...Charles Fergus.
もし,あなたがワーキング・ボーダーコリーをご覧になったことがあるなら,きっとこれらを 「眼」 のことを記述した文章だと思われたことでしょう.でも原文では,[ ]中の単語は [羊] ではなく [鳥] だったのです.お気づきだったでしょうか? 上の2つの文章は,ポインターやセッターのような,優れた鳥猟犬やガンドッグたちを描写したものだったのです.
一般に, 「純血種」 やドッグショーの概念は19世紀になるまでありませんでした.それまでは,飼い主それぞれの目的と都合でブリーディングが行われていました.猟と家畜追いの両方ができるような犬は,とても重宝されました.
去勢や避妊の習慣もありませんでしたし,おそらくほとんどは放し飼いでした.飼い主たちの選択や,あるいは犬自身の好みによって,混血が進みました.やがてISDS (International Sheep Dog Society)が結成され,ボーダーコリーのスタッド・ブックが発行されましたが,それからも,犬の作業能力さえ証明できれば登録されていきました.ワーキング・ドッグの価値としては, 「遺伝的な純粋さ」 より作業能力の方が重要だったのです.現代のボーダーコリーにつながるすべての犬の記録が残っているわけではありませんが,この犬種に今も見られる特性から,いくつかのことがわかります.
中世の時代,現在のスパニエルの祖先にあたる犬種が,鳥猟犬としてブリードされていました.彼らには猟のときに自然にクラウチング姿勢(伏せて獲物を狙う姿勢)をとる習性がありました.当時は遠くから小さな鳥を狙い撃ちする精巧な武器がなかったので,伏せた犬もろとも,鳥をめがけて網を投げていたからです.この 「本能」 が,ボーダーコリーのクラウチングの起源だと思われます.スプリンガー・スパニエルの被毛の色柄をご覧になったことがあるでしょうか? それは今日のボーダーコリーにも引き継がれています.
その後,最初の文章で紹介したような習性を持つセッターやポインター種が作出されました.犬の生来のハンティング本能は抑制され,獲物を攻撃するかわりにステイバックし,獲物の位置をハンドラーに知らせるように改良されていきました.これがボーダーコリーの 「眼」 の使い方に引き継がれたことには,ほとんど疑いの余地がありません.身体を起したり,羊を動かすことを拒むほど強い眼を持った犬の習性と, 「しっかりポイントする (staunch on point)」 鳥猟犬のそれは違いがありません.これは猟犬には望ましい性質ですが,牧羊犬にとっては明らかに行き過ぎです.でも,両者は同じ反応なのです.
鳥猟犬と牧羊犬の最初の混血は偶然だったかもしれませんし,あるいは多用途犬を作ることが目的だったかもしれません.その理由はどうあれ,牧羊犬に加えられたこの習性が,吠えたり歯を当てたりする古来のスタイルよりも,ずっと簡単で効果的に羊を操る優秀な作業犬を作り出すことになったのです.
ゴードン・セッターという犬種があります.これは1700年代初め,ゴードン卿の手によって優秀なセッティングドッグと彼の使用人の牧羊犬(メス)とを掛け合わせて作られたことが知られています.どうして彼はこんなことをしたんでしょうか? その牧羊犬は,猟犬としても優秀だったことが記録に残っています.羊飼いが犬を売ることを拒んだため,卿は交配を実行し,その子犬で満足するしかなかった,という説が有力です.
同じように,グレイハウンドやウィペットもコリーに掛け合わされました.牧羊犬とそれよりスピード豊かなグレイハウンドがかけ合わされ,子犬たちは親よりも速い牧羊犬になりました.その一方で,彼らはグレイハウンドよりも賢く,スタミナも豊富だったことでしょう (Glyn Jonesの父親がウェールズでボーダーコリーの飼育と訓練に携わっていた頃,この掛け合わせはまだ続いていました).これらの混血犬はラーチャー(lurcher)と呼ばれ,彼ら自身やその子孫の多くはボーダーコリーとして登録されていきました.今日のボーダーコリーの典型的な耳の形の一つは,明らかにグレイハウンドやウィペットから来ています.
ISDSの登録記録の中でさえ,ビアデッドコリーの血が導入されているのが確認できます.もっとも有名な犬は,なんと"8"という若い登録番号を持つ S.E. Batty の Maddie でしょう.彼女はかの有名な W.B. Telfer により作出されました.現代にたくさんのラインを残したWilson's Cap (3036) の曾曾曾おばあさんに当たります.
ボーダーコリーに詳しくない人は,私のバラバラな2頭を見比べ,「えーと,彼らは同じ犬種なんかじゃないですよね?」 と言います.大抵の場合,私は少々腹を立てつつ応えます. 「彼らはもっとも古い犬種の一つであり,明確な目的を持った何世代にも渡った選択的ブリーディングの賜物です.」 しかし見方を変えて,もし 「容姿の似た犬のグループ同士を掛け合わせたもの」 や,あるいは 「遺伝的純粋さを目指して選択された犬のグループ」 が犬種の定義であったとすると,ボーダーコリーは一つの犬種とは言えなくなるでしょう.ボーダーコリーは,習性や能力,農家や羊飼いにとっての有用さを基準に選択されてきた犬種です.見かけ上の特徴にしても,たくさんの先祖の特徴を引き継いでいます.新しく生まれてくる子犬は,いつも喜びに満ちた予想のつかない驚きです.父親や母親に似ている場合もあれば,どんな犬にも似ていないような場合だってありえます.
多くのメンバーから,HDの遺伝的性質について質問がありました.”Good”や”Excellent”以下のオスを繁殖に使ってはいけないんでしょうか? 親の一方がHDとすると,何頭の子がHDになることを覚悟すべきでしょうか?同胎に重いHDの子がいるんですが,繁殖させても良いでしょうか?HDはインブリードが原因なんでしょうか?
残念ですが,これらの質問にはすべて 「わかりません」 とお答えするしかありません.大抵の遺伝の話はそうなんですが,健康な腰を持った子をブリードしていくのは,チャンスと確率の問題なのです.ただし,一対の遺伝子ペアで決定されるような,そんな単純な話でないことは確かです.例えばコート色で 「レッド」 遺伝子の例はすでにお話しましたが,その確率を計算するのは非常に簡単です.どんな組み合わせでも,何頭のレッドの子が生まれるかを統計的に正確に予想することができます.
しかし,腰の場合は,たくさんの遺伝子が関連しています.それらには,レッド遺伝子”b”のように劣性のものと,ブラック遺伝子”B”のように優性のものが含まれていると思われます.問題は,それらの遺伝子がいくつあるかがわかっておらず,我々がそれらの性質を正確に分析する術を持っていないことです.このためには,まず,全メンバーの何百もの子犬やその両親,その子孫をすべて検査することからスタートしなければなりません.我々のメンバーはオープンで限定すらされていませんが...
遺伝的には,だいたい,次のような仕組みになっていると思われます.HDがaa, bb, ccのような3種類の劣性遺伝ペアの組み合わせによって起きることを示唆する事実がいくつかあります.すべての遺伝子は対になっており,各子犬にはそのどちらか一方が引き継がれるという性質を思い返してください.すなわち,親犬がAaBbCcという遺伝子を持っていれば,ABC, ABc, Abc AbC, aBC, aBc, abC, abcのうちのいずれかの組み合わせが,子犬に引き継がれます.一対のペアを考えた場合,有害な遺伝子はその両親の両方から受け継ぐ必要があります.したがって,両親ともが3種の遺伝子全部に対して少なくとも1個の劣性遺伝子を持っており,ある子犬にぞれらが受け継がれたとき,その子犬がHDになると思われます.同胎の兄弟は,それぞれ一方だけしか受け継がなかったり,aとbだけ受け継いだり,その他さまざまな組み合わせになる可能性があります.abcを持った犬は,同じくabcを持った犬と交配したときにHDの子孫を産み出します.abしか持っていない犬からは,HDの子犬は産まれません.
しかしながら,HDが優性遺伝子によって引き起こされていると考えることも可能です.この場合は,それぞれのペアに少なくとも1つのHD遺伝子があれば発症することになります.すなわち,片親からの遺伝子だけでもHDになる可能性があるわけです.AaBbCcの親は,もう一方の親がどんな組み合わせであろうと,HDの子犬を産み出すことができます.
完璧に 「正常」 な両親から,HDの子犬が生まれることがあります.どうしてこんなことが起こるんでしょうか?もし,HDの遺伝子が劣性としたら,これはごく普通の現象です.ブラックの両親からレッドの子犬が生まれるのと同じです.逆に優性であるとすると,例えは片親がAとBを持っており,もう一方の親がCを持っているような場合にこのような現象が見られます.すなわち,両親にはHDの兆候が見られなくても,交配したときに3つの優性遺伝子を持ったHDの子が生まれるのです.
劣性のコンビネーションであるaabbccは,インブリーディングが多いと出現する確率が高くなります.遺伝子は家系図に沿って引き継がれていきますが,同一ラインのメンバー間では,遺伝子の組み合わせも同じものになる確率が高くなります.
一方,ABCのように優性遺伝子が揃う機会は,アウトブリーディングの方が多くなります.AやBを持ったラインをいくら掛け合わせても,Cを持ったラインを導入しない限りはHDは出現しません.3つが揃うまでどんな組み合わせになっているかわからないため,HDが出現しない限り,どのラインを避けるべきかはわかりません.もし,あるカップルがHDの子犬を出したとすれば,初めて危険性があったことがわかりますし,その組み合わせは2度と繰り返さないようにすべきです.もちろん,その子犬が成犬になるまでそれがわからないことになりますが.
上に述べたしくみは2つとも仮説に過ぎませんし,実際のメカニズムは両者よりももっと複雑であると思われます.ただし,どちらのケースであったとしても,HDが現われた犬は交配すべきでないということは言えます.私はあるブリーダーから次のように聞いたことがあります.「どちらにしても優れたワーキングドッグは交配すべきだよ.問題があったとしても,そんなものは後の世代で淘汰されていくさ.」このように,ひどい腰を持った犬が優秀だった場合が一番危険なのです.もし彼がたくさんのトップクオリティのトライアルドッグを子孫として残したとすると,その犬種の主要なラインにHDの遺伝子をばら撒くことになるのです.遅かれ早かれ,その子孫たちはお互い交配されることになるのです.
もし,遺伝子が劣性なら,ラインブリーディングの多用が何をもたらすかは明らかです.ちょうど,Wiston Capが現われてから犬種全体にレッドが増えたように...もし優性であったとしたら,3種の優性遺伝子が全部存在するラインを作ったことになります.AaBbCcの子孫でAとCを持った犬が,Bを持った犬と掛け合わされる機会も出てくるでしょう.その子犬にはHDが現われてきます.ABC犬のラインへの掛け合わせが多くなればなるほど,3種の遺伝子が揃う可能性が高くなるのです.
実際,我々がHDの高い出現率の理由を説明する際には,非常に有名なオスの遺伝子の中にその要因があり,それが犬種全体に広がってしまった,と説明します(餌の与えすぎなどを理由に挙げるのは,ペットやオベディエンスのオーナーです).
私は過去の記事の中で,ノーマルな毛色や,単純なあるいは複雑な遺伝的欠陥の遺伝について紹介してきました.また,意図的な選択や,偶発的な 「ドリフト(訳者注:選択的ブリーディングによって生じる形質の偏り)」 が,その動物の全体に及ぼす影響も述べてきました.しかし,ボーダーコリーのブリーディングの底辺にあるものは少し違うようです.それは,私たちが本能と呼ぶようなものです.本能って一体何なんでしょうか? それはどの範囲まで継承されるのでしょうか? 他の犬種でも,ハーディングを学習することはできるんでしょうか?
本能: 本能(Instinct)と言うのは,今日で言う先天的行動(inborn behaviors)にあたる,古い用語です.それは動物学者たちの領域であり,Nikko Tinbergen と Konrad Lorenz によって,深く研究されてきました.Tinbergenは,鳥たちと彼らの複雑な社会的行動について研究しました.それによると,特定の種類の鳥は行動のパターンに固定したパターン,すなわち,特定の刺激に対する固有の反応が見られることが確認されました.例えばカモメは,自分の卵を巣の中にあるかどうかで判断します.卵を巣から取り出し砂の中に置いておくと,親鳥はそれが何か気がつきません.偽卵を巣の中に入れておくと,たとえ四角い形であっても,色さえ似ていれば彼らはだまされてしまいます.Tinbergenの本能の世界では,学習の概念は無く,先天的なパターンだけです.
過去,心理学者たちは,すべての行動は学習に依るものであり,子供時代の体験で何でも説明できると解釈する傾向がありました.今日の動物行動学者は,どこか両者(学習←→先天的行動)の中間当たりの解釈をしていますし,ボーダーコリーのハーディング 「本能」 も,そう解釈されています.
行動に関する遺伝のしくみは,研究すること自体が非常に難しい問題です.ねずみと迷路を使った実験が盛んに行われてきましたが,大部分はイヌのブリーダーにとって参考になるものではありませんでした.それでも一つ確実にわかってきたことは,行動タイプが選択的ブリーディングによって変化するということです.
イヌの行動: もっとも注目すべき研究の一つは,私たちの関心の的−家庭犬−を使った実験です.それは John Paul Scott と John L. Fuller により, Main 州 Bar Harbor の Jackson 研究室で行われました.13年間もの間, Scott と Fuller は何百頭もの純血種や意図的な雑種を交配し,育てました.そして,誕生から1年までの行動を観察したのです.彼らは 「行動は遺伝するか」 ではなく, 「遺伝は行動にどんな影響を及ぼすか」 という視点で研究を進めました.その成果は, 「イヌの遺伝と社会的行動(Genetics and the Social Behavior of the Dog)」 と名付けられた,おそろしく詳細な(そして見つけることが難しい)本にまとめられました.
5種類の犬種が実験に用いられました.バセンジ−,ビーグル,アメリカン・コッカ−・スパニエル,シェットランド・シープドッグ,そしてワイヤーへアード・フォックス・テリアです.これらの犬種は,実験環境に無理の無い小さなサイズであり,またいろんな犬種グループの代表として選ばれました.
Gregor Mendel が最初に遺伝を定義したとき,非常にシンプルな1か0の性質(高い/低い,緑/黄,など)に着目して実験しました.彼は,いくつかの異なる種の掛け合わせを行いました.純血×純血,ハイブリッド×ハイブリッド,ハイブリッド×純血などです.Scott and Fuller も,古典的な 「メンデル式」 実験を考え,シンプルな行動を選びました.最初の年には,子イヌたちに膨大な行動テストと測定が実施されました.結局,バセンジとコッカ−・スパニエルの差が大きいことがわかったので,その間で交配が行われました.その子供たち,すなわちハイブリッド犬たちの間に生まれた2世や,再度親犬たちとの間で交配された2世たちが,詳細に観察されました.
すべてを報告するため,この本は数百ページを費やしていますが,かなりの部分がパフォーマンス・ドッグのブリーディングに関係しています.テストされたほとんどすべての性質に対して,それが子イヌに出現する特定の時期があり,その時の環境がその発達を左右することが明らかになりました.例えば,実験室における普通の環境では,5週目を過ぎる頃までは人の手に触れる機会がほとんどありません.人間に慣れるのに,ほとんどの犬種ではそれで十分でしたが,バセンジだけは,それよりはるかに多く人と接しなくては,人間を恐れるようになりました.人間に育てられた数少ない例では,犬種間の差異は見られませんでした.もっと 「ワイルド」 な状態で育てられたイヌにも,やはり犬種間の差異は見られず,人間に対して一様に攻撃的でシャイな性質を持っていました.すなわち,バセンジと他犬種の間の遺伝的な差異は,直接 「シャイさ」 や 「勇敢さ」 として現われるのではなく,社会化に必要な人間との接触の量に現われるということがわかりました.
ここで見られた行動の違いに対する遺伝的な影響は,他の多くのテストを通じて典型的なものでした.バセンジは吠えないことで有名な犬種であり,コッカ−スパニエルは,よく吠えるという悪名高い評判を持っています.しかし,より強い刺激を与えれば,バセンジも吠えます.スパニエルのように簡単な刺激で吠える性質は優性であり,単一遺伝子による形質に近い形で継承されます(以前に,レッド色の遺伝で説明したように).
ボーダーコリーに関して言えは,もう少し複雑な行動パターンの方が興味が湧くと思います.私たちは,ボーダーコリーが伏せて羊をにらむ性質は,その祖先であるポインターやセッター(突っ立つ性質があります)からではなく,初期のスパニエルから来ていると考えています.遺伝に関する知識など無かった時代,彼らには鳥がフィールドに来るまで屈んだり伏せたりして待つ性質が,選択的にブリーディングされていきました.
研究室での習慣の一つに,毎週の体重測定がありました.各イヌが秤の上に乗せられ,約一分間静かにしているように訓練されました.11週までの間に,コッカーは 70% が静かにすることを覚えましたが,バセンジでは20%でした.子イヌが小さい時分は,秤の上で伏せることができましたが,大きくなるにつれてそのスペースが無くなってきます.このとき,コッカ−は座りはじめるのに対し,バセンジは立ち上がる傾向がありました.
16週目の観察では,70%のスパニエルが座ったのに対し,90%のバセンジが立ちあがりました.秤の上での行動は,座る/立つと,静か/アクティブの2つの習性に分離することができました.すなわち,静かにしているけれども立ち上がる子イヌとか,座るけれども静かにできない子イヌ,などです.
屈むこと(crouch)は2つの遺伝子が関与し,立ち上がるものよりも,屈む(あるいは座る)性質のものの方が優性であることがわかりました.静かにしていることも2種類の遺伝子が関与し,スパニエルの行動(静かにしている)が,アクティブなそれより劣性であることがわかりました.したがって,この種の行動パタン全体では,合計4種類の遺伝子が関与することになります.この場合,可能な遺伝的組み合わせの数は256にもなります.
ボーダーコリー: これがボーダーコリーにとって何を意味するのでしょうか? もし,羊の後方で静かに伏せて待機するというシンプルな行動が4つの遺伝子対に影響されているとすれば,目の使い方やバランス,パワー,従順さなどを含めて,ハーディング行動全体に影響する遺伝子がどれくらいになるか,想像してみてください.そして,一旦そうした性質が失われてしまったとき,それが偶然に再構成されるチャンスがどれくらいあるのかについても...
多分,行動に関する遺伝のしくみの複雑さは驚くまでもないでしょう.しかしそれは,パフォーマンス・ドッグはすべての世代においてパフォーマンスのためにブリードされるべきであるという意見の根拠になります.関与する遺伝子の数が多いほど,可能な組み合わせの数が多いほど,その性質が損なわれたり失われたりすることが,容易になってくるのです.
もし,容姿を基準に選ばれたイヌが優れたハーディング遺伝子を持っていないとしたら,これまで長年かけて選択されて来たすばらしいパフォーマンスの組み合わせから離れていく結果を,必然的に招いてしまうでしょう.
ボーダーコリーのコートカラーで,レッドより珍しいのがホワイトです.私は AKC の方針については知らないのですが,イギリスケンネルクラブのスタンダードでは次のように規定されています. 「各種の色が許されるが,ホワイトが優勢であってはならない」 ホワイトの子犬は最後まで売れ残るため,ブリーダーたちはこの毛色を嫌います.つい最近も,買い手がつかないために,5,6ヶ月の白い子犬を手元に置いているブリーダーと話をしたばかりです.ちょっと昔だったら,すぐに眠らされていたかもしれません.
牧羊の世界でもホワイトが避けられてきましたが,その理由は 「同じ色だと羊たちに一目置かれないだろう」 ということでした(Marjorie Quarton の All About the Working Border Collie では,「同じ色の犬に対しては怖さを感じないため,ホワイトの犬は羊を追えないというのが,一般的な考え方でした」 と記されています).世の中の大抵の偏見がそうですが,この奇妙な理屈もちゃんと調べれば変だということがすぐにわかります.一番おかしいのは,羊が白いと決めてかかっている点です.私が関わってきた群には,黒やブラウンやまだら色の羊たちがいました.もし,どうしても羊と違う色の犬が必要なら,ピンク色くらいしかありませんね! 羊たちはいろんな色の仲間をきちんと見分けています.色が違うだけで犬を見分けられないはずがありません.
身体が白くても頭さえ黒ければ,ハーディングに使えるという話も聞いたことがあります.羊は犬の色を見分けるのに,主に頭に注目するからだそうです.しかしこれまで,優秀なハーディングドッグの頭がホワイトだったという例は山ほどあります.この場合,羊たちはどこに注目してると言うんでしょうか?
この春に開催されたバージニアトライアルの初心者−初心者クラスでは,頭部に色がついた2頭の白い犬が出場しました.どちらも,羊を従わせるのに何の問題もありませんでした.
私は以前,全身ホワイトのボーダーコリーに対して,ハーディングの手ほどきを手伝ったことがあります.オベディエンスの初期段階で若干の問題はありましたが,羊たちは何の問題も無く彼女を犬だと認めました.これから数年,新しいハンドラーたちがどんどん参加するようになってくると,トライアルフィールドで白い犬を見かける機会も増えてくるでしょう.新しいハンドラーは白い犬がハーディングが不得意だということを知りませんし,犬たちだって知りません.第一,羊たちが気にしてないんですから.
白い犬はどうして生まれるんでしょうか? 2,3の可能性が考えられます.ほとんどすべてのボーダーコリーは,身体のどこかに白のマーキングを持っています(例外も知ってますが).これは,他の犬種と同様,3種あるいはそれ以上の遺伝子の組み合わせに左右されます.私が確認できた範囲では,3つの基本的な遺伝子は,みんな 「ホワイト・スポッティング」 遺伝子と対比する形(対立遺伝子)をしており,どれもが白の領域を増やす働きを持っています.
一つめは,つま先や胸に非常に小さいスポットを出現させる(あるいはまったく出現させない)遺伝子です.こういうボーダーコリーは,W. Hardisty の Jim の系統から来ていることがよくあります.Jim 自身はわずかにホワイトがあるブラック&タンの犬でした.母犬はやはりわずかにホワイトのあるブラック&ブラウンの Merrie であり,祖父に当たる Dickson's Ben はほとんど真っ黒でした.
2つめは,顔のブレイズ(訳者注:帯状の白いマーク)と,足先,脚,腹部,尾の先に白が見られ,首の周りにも幅広く白の領域が見られるタイプです.パターンはいろいろですが,この他の箇所には白が出ないことが特徴です.ボーダーコリーでは,もっとも普通に見られるパターンです.他の犬種(コリー,シェルティー,オーシー,ボストンテリア,セントバーナード,コーギー,ボクサーなど)や他の動物(猫やウサギなど)にも見られます.このパターンは, 「ダッチ」 という種類のウサギの特徴でもあるため,そう呼ばれることもあります.
そして,以上の2つより少しだけ多いものから,全身が白になるようなパタンを出現させる,少なくとも1つ(おそらく2つ)の対立遺伝子があります.グレイハウンドやポインターも,この 「極端な白」 遺伝子を持っています.この遺伝子はしばしば 「ホワイト・ファクター」 と呼ばれますが,劣性のため,白い犬が出るためには遺伝子対の両方ともがこの遺伝子である必要があります.ただし,完全な劣性でもないため,一つでもこの遺伝子があれば,犬の身体にはさまざまな大きさの白の領域が現われます.普通,腰や背中の小さなスポットは 「ホワイト・ファクター」 があることを示しています.後ろ肢のホワイトが stifle にまで達していれば,ホワイト・ファクターがあると信じているブリーダーたちもいます.
傑出したハーディングドッグの中にも,ホワイト・ファクターの持ち主がたくさんいます.中でも特筆すべきは,Gilchrist's Spotです.彼は後ろ肢からヒップにかけてホワイトが走っていました.彼の祖母は,やはりホワイトだった Ann であり,彼女は違うラインを通じて,Wiston Cap の曾曾おばあさんでもありました.
頭部の白色は,独立した遺伝的形質として現われますが,これに関する研究は見たことがありません.オールド・イングリッシュ・シープドッグでは,典型的に見られるパターンです.ボーダーコリーでは,顔の全部あるいは半分が白い例が多く見られ,普通は首周りの広い白につながっています.白い毛は黒い毛より長くなる性質があるので,白い顔の犬は,特にオスの場合,ライオンのように白くて立派なタテガミを持っているように見えます.私が知っている限りでは,こういう犬たちも間違いなく優秀なワーキングドッグです.白い身体に白い頭というのが,もっとも珍しい組合せです.
はっきりとした欠陥があるため,買い手やブリーダーも避けるべき遺伝的な形態が,ホワイトのボーダーコリーの中で1つだけあります.それはマールどうしを掛け合わせたものです.これは,マールが見られるどんな犬種(コリー,シェルティー,オーシー)でも起こります.両方の親からマール遺伝子を引き継ぐと,子犬は小さなマールのスポットがある,ほとんど白に近い体色になります.特に,ホワイトが目や耳の領域に出ると,聴覚や視覚に異常を来たします.マール同士の両親から生まれる子犬のうち,1/4 にはそのような欠陥が出ます.マールは簡単に見分けがつきますので,この組合せは避けることができます.マール同士を掛け合わせてはいけません!
ほとんど白の上に,赤やブルーのマールが見られる場合は,細心の注意を払う必要があります.もちろん,正常なマールの犬も,他と同様にホワイトのマーキングを持っている場合があります.ぜひ両親の毛色を確認し(2頭ともマールか? ホワイト・ファクターを持っているか?),視覚と聴覚を念入りに検査することをお勧めします.